第九十二話 ヨットって、本当に何だろう?

ヨットというのは遊び道具です。本当はただそれだけなのかもしれません。野球のボールやテニスのラケットと何ら変わるものでは無いのかもしれません。結局はそれをどう使うかによって、面白いとか楽しいとか、或いはつまらんとかに色分けしているのでしょう。本当はヨットには責任は無いわけです。

簡単な話、ヨットをどうやって面白い物にしていくかは、使う側の責任という事になる、どう演出するかにかかっています。それは人それぞれで、誰からもとやかく言われる筋合いでは無い。でも、こうしたらもっと面白いのでは、という提案はできます。それも業者の仕事にひとつになります。

土曜日、天候は快晴、暑くも無く、寒くも無く、また良い風が吹いてる。何てヨット日和か、そう思ってマリーナに行きましたが、いつもより若干多く、数艇が出てました。マリーナは人がまばら。これまで台風が来たり、強風が吹き荒れたり、なかなか良い日はなかったのですが、久々の好天気に恵まれたにも関わらず、こういう状態です。これはいつもの事ですから、驚く事はありません。年間を通して、だいたいいつもこんなもんです。でも、レースなんかがある時は、ちょっと人が多くなります。クルージング派の方々も、こういう草レースなんかはたまに出られる。楽しみなイベントのひとつです。

マリーナに残ったヨットを眺めていますと、船底が汚れているもの、シート類が古くなったもの、セールのカバーなどが破れて、ひらひらしているもの、台風の時にたくさんロープを取っていて、今もそのままなもの、どうも、全体的に華やかさが無い。色で言えば、マリーナ全体が薄くくすんできている感じです。。もちろん、古いヨットでもきちんとしているのもあります。でも、全体的にオーナーの存在が感じられない。

ヨットは物に過ぎないのですが、そこに係留しているだけでは、オーナーを楽しませる事はできません。ヨットは実は何もできない。そこで、オーナーが来て、これを使ってやることではじめてヨットは蘇り、その事でオーナーを楽しませる事ができます。自分が楽しい時間を過ごすために、このヨットをどうしたら良いか、それを考えるべきだと思います。ヨットはそのままでは何の恩恵も与えてはくれませんから。これが運営の第一歩だろうと思います。楽しければ、その道具を大事にします。磨くのも楽しい作業です。でも、楽しくないと、そんな事はしない。楽しくするのは、自分で運営を考えなければならない。楽しくする演出を考えなければなりません。ヨットというのは、そういうやっかいな物です。テレビとは違う。自分から先に行動しなければ、何も楽しくならない。ですから、主体性が求められる。主体性無しでは、ヨットを楽しむ事はできないだろうと思います。ですから、その主体性を発揮して頂きたい。

それで私の提案になります。誰かが乗せてほしいと言ったから乗る。家族を乗せてあげようと思って計画する。それでは年に数回しか乗らない。自分が乗りたい、あの感触を得たい、あのスリルを味わいたい。爽快気分になりたい。いろんな感覚を自分が味わいたい。この主体性が根底には必要だろうと思います。その為にヨットを買ったんではないでしょうか。主役は自分じゃなくちゃいけません。自分をまず楽しませて、ヨットを大事にして、そして、家族や友人を楽しませてあげる。そうじゃないと、ヨットは続かないと思います。家族や友人はともかく、自分がどんなヨット運営を望んでいるのか、それが基本に必要だと思います。

その基本がデイセーリングという事です。それも真剣なセーリングです。集中しないと感じ得ないセーリングです。これは何度も言いますように、誰でもできる事です。それで居て真剣になれば、エキサイティングでもあります。近場でも凪から強風まで、自然はいろんな状況を設定してくれますから、いろんな遊びを体感できます。こういう乗り方を普段の乗り方としますと、それが面白くなります。面白いとヨットを大事にしてメインテナンスも良くなります。そうなるといつ仲間や家族を招待しても安心です。どんな遊びをするにしても、どうにでも出来る。乗る事によって、自然とオーナーはヨットに精通し、自然に対しても精通していくでしょう。だからこそ、宴会の時でもピクニックの時でも、泊まっても、いろんな事ができるし、面白くなる。

これが私の一貫した提案です。ヨットでどんな遊びをしようと自由ですが、ただ、基本はデイセーリングを真剣に走る。これを基本としたら、ヨットは非常に面白い道具になると思うのですが。真剣にセーリングしたら面白いかどうか? それはやってみないとわかりません。人にも寄るかもしれません。でも、真剣になれば、神経が集中しますから、いろんな感覚が研ぎ澄まされますから、いろんな変化が感じられます。求めているのはこの感覚です。ある一定期間、是非、走ってみてください。工夫したり、ああでも無い、こうでも無いと考えたり、人に聞いたり、学びながら、いろんな事を試してみてください。きっと面白くなると思います。そうなったら、全てが変わります。それから先は自由にやってください。ロングに行こうが、宴会しようが自由にやってください。もう、面白さが解ってますから、普段はセーリングを楽しまれるでしょう。そうするとヨットは良く動き、いつもきれいにメインテナンスされ、きれいになっていく。マリーナのヨットの多くがそうなれば、全体に輝きを増し、マリーナは活気づきます。そうなるともっと楽しいマリーナになる。ヨットが楽しいとか、マリーナが楽しいとか、そういう事では無く、各オーナーが楽しければ、ヨットも輝き、マリーナも活気づく。マリーナにあれがあれば、これがあればという話も聞きますが、その前にオーナーが楽しまないといけません。これが何より先決です。

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