第二話 次のステップへ

小さな市場とはいえ、日本にも数多くのヨット、それも世界中から集められたヨットが進水しています。特に、横浜のベイサイドマリーナなんかにいきますと、日本もすごいな、決して外国にも負けていないと思わせます。豊かさを感じさせます。

さて、日本も次のステップにそろそろ入っても良かろうと思います。それは物を手に入れた次は、その物を使うというステップです。使わないとその良さは解りません。あこがれて手に入れるという時期から、それをどううまく使うか、使いこなすか、そこにも工夫が必要です。自分の感じる面白さをいろいろ試してみる。そうしますと自分なりの評価ができます。所有する事の満足感から、今度は使っての満足感はどうか?もはや、持ってるだけじゃ面白く無い。

ヨットというのは、かなり自由度が高い遊び物ではないかと思います。野球やサッカーにはルールがあります。どんな風にして遊ぶかは既にある程度はパターンがあります。TVゲームもそうだし、
スキーもサーフィンも、どうやって遊ぶかのパターンがある。ヨットはこれがレースなら同じですが、
レース以外では、さあどうぞ、自由に遊んでくださいとなります。そうなりますと、家のように使う事もできる、別荘にもなる、料理を作る、宴会する、セーリングにおいてものんびりもできれば、どう走っても良い、一生懸命走る事もできる。釣りだってできる。キャビンで読書もできれば、テレビ見たり、ビデオ見たり、昼寝したりもできる。ひとつの動く空間です。その空間で何をしようとも自由です。自由とは何て素晴らしいものか、と思いますが、反面、あまりにも自由が多いと何をして良いか解らなくなる。

テレビは娯楽の王様と言われますが、それは向こう側が面白そうな企画をどんどん出してくる。それをこっちはチャンネルを変えて、選択するだけで良い。実に簡単です。遊びも仕事もパターンがあって、どういう風にするか、目的は何かがはっきりしていますと、それはやり易い。でも、ヨットは違う。自由にどうぞです。この自由というのは、良いようで案外やっかいなものです。人は目的の無い所に自分で目的を設定して、その順路を自分で作らなければヨット遊びはできない。目的のひとつはレース、これなら明確です。どんな風に走って、どうすれば勝てるか、それが目的で、これが定まれば実に楽しめる。レースをしないなら、或いは年に1回程度なら、レースさえも本気にはなれない。ならばどうするか、簡単な事は目的地を持つ事です。どこそこに行ってみたい。そう思う事です。
それで行ける人は良い。時間が無い人はどうするか、仲間との集い、家族との集い、その中でセーリングをする。こういう目的は集いの方に重きがある。ですから、集まらないと楽しくない。後は、漠然とセーリングするかです。勝つ為でも無い、集いがあるわけじゃない。ただ、漠然と。

ヨットの遊びのパターンのひとつはセーリングです。でも、このセーリングというだけでは漠然としている。ちょっと慣れれば、誰でもすぐに漠然としたセーリングはできるようになる。漠然としているから、ちょっと吹いただけで乗らないし、一人でも乗らないかもしれない。一人で乗らないなら、クルーが来た時だけになって、それも漠然としているなら、おしゃべりが大半になって、やっぱり全体がぼやけている。何か核になる物、面白い物、エキサイティングな物、ワクワクさせる物が無い。優雅さ、快適さでは10年も続ける事はできない。自分で企画するという事、演出するという事、自分自身を楽しませる事なんですが、決して簡単では無い。遊ぶのも楽じゃないよ、という誰かのセリフが思い浮かびます。

でも、こういう事は実際使わないと解りません。ヨットで読書する事が本当に落ち着いて、熟読できるという人も居るでしょう。キャビンが書斎を得たようで、落ち着けるという人も居るでしょう。それらは使っていって、自分にフィットする感覚を得なければなりません。それでこそヨットライフが永くできる唯一の方法だと思います。ですから、これからは、どんどん意識的に使って、自分のフィット感がどこにあるか探って見てください。決して、遠くに行く事だけがフィットするわけでは無いし、レースもまたしかり。使い込んで、そのフィット感をどこかに見つける。それを中心にいろんな使い方を演出していく。それが永く使うには必要だろうと思います。

そのいろんな使い方のパターンにおいて、最もお奨めしたいのが、デイセーリングなのです。それは漫然とした走りでは無く、セーリングに意識を集中して、より良く、滑らかに走るという事を心がけ、よりうまくなるという目的を持って走る。それは知識を増やす動機になり、さらに腕を押し上げる。
上達する事の面白さは誰でも想像できるでしょう。走れば、いろんな状況にも遭遇する。良い事も歓迎したくない事もある。それでも続けるに必要な面白い感覚もある。もちろん、これが全てでは無く、いろんな異なるパターンも彩りとしては良い。しかし、こういう乗り方を中心に据えてみたらいかがでしょうかというのが、私の提案です。ヨットは下手でも乗れる。でもうまくなった方がより面白い。それを目的に設定し、日々のセーリングにはいかに走るかを学び、試し、そのうち、俺もまんざらじゃないなと気づく時が必ず来る。

ロングに行くのは大変です。でも目の前の海域なら誰でも行ける。これまで漫然だったセーリングを意識を変えてやるだけで、世界はパッと一変してしまう。

これからはどんどんセーリングして、ヨットの持つ本来のエネルギーを感じて、自分のスタイルにして頂きたいと思います。一人でやるか、相棒は居るか、艤装はくたびれていないか、不必要な荷物を山のように積んでいないか、船底はきれいか、エンジンは整備されているか、自分がスイスイ帆走する姿、うまくなれば美しく走れる快感、そういうものを目指してエキサイティングなヨットライフを見つけていただきたいと思います。所有から使うステップへの移行です。

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