第九話 ヨットの機能

自動車は社会の発展とともに変化してきました。最初はT型フォードでしたでしょうか、それから実用性の高い車がどんどん生まれます。仕事をする車、人を運ぶ車、レジャーが発展して、キャンピングカーや、ワンボックス等、社会の有り様が伺えます。

ヨットに関連して言えば、仕事をするヨットはありません。人を運ぶ事はできます。しかし、ヨットはレジャーオンリーの用途として使われますので、さしずめ、キャンピングカーと同じような役目になる。
キャンピングカーは大抵はひとりで乗る事は無く、仲間や家族とどこかに出かけ、車で食事から寝る事までできます。ヨットはまさしく、これに当たる。従って、ヨットはキャンピングカーと同じようなものです。

さて、ヨットにはもうひとつの機能があります。それはキャンプをするというレジャー以外にセーリングという機能です。ヨットをキャンピングとして考えるならば、大半はエンジンを使います。それでキャンピングカーと同じような役目を果たしますが、セーリングは全く異次元のレジャーだろうと思います。つまり、ヨットにはキャンピング機能とセーリング機能のふたつがある事になります。

セーリングを詳しく見てみますと、移動という機能とセーリングそのものを味わうという機能があります。移動として見れば、エンジンで行くのと同じですが、例えば、外洋とかに行く場合、燃料が持ちませんから、途中でガソリンスタンドに寄る事もできませんから、セーリングします。この場合はセーリングは移動としての機能を果たします。これはエンジンがセールに変わったというだけでしょう。しかしながら、ヨットにはもうひとつ大事な機能があり、それはヨット独特の機能という事になりますが、移動目的では無く、セーリングそのもののフィーリングを味わうという機能です。どこかに行きたいわけでは無く、結果的にどこかに行く事になるでしょうが、目的はセーリングそのものの中にあるという事です。

つまり、ヨットを遊ぶには、二つの機能、キャンピング機能とセーリング機能、これらをどう使い分けるかという事になると思います。今している行為はキャンピング機能なのか、セーリング機能なのかという事です。

家族でホームポートを出て、そこらをゆったり回って、おしゃべりを楽しみながら、再びホームポートへ帰ってくる。これはどこかに行ったわけではありませんが、機能としてはキャンピング機能でしょう。この場合はエンジンを使いませんが、セーリングそのものの味わいよりも集いがメインになると思います。同じように、家族や仲間とホームポートを出ても、みんながおしゃべりよりもセーリングに意識が向かうと、それはセーリング機能を使う事になる。もちろん、同じ航程の中でも、キャンピングとセーリングが交互に使われる事もあるでしょう。

これは当たり前の話ですが、それらを少し意識してみてはいかがでしょう。キャンピングは誰でも無意識のうちにできます。それらは日常における行動と大きな差は無く、場所がヨットになったというだけです。しかし、セーリングは意識しないとできません。少しの意識のシフトがセールを意識し、スピードを意識し、角度を意識させます。意識する事によってはじめて、セーリングから得られる感覚を感じようとします。それは気持ち良いとか悪いの単純なふたつの感覚では無く、もっと深い感覚です。楽しいという感覚では無く、面白いという感覚です。

ヨットにはふたつの機能があります。そのどれを楽しむかはオーナー次第ですが、ヨットは非日常性が高いですから、日常の行為もヨットでする事によって非日常性を味わう事もできます。そして、さらにセーリングは非日常の最たるものではないかと思う次第です。たまに使うならキャンピングでも楽しい、でもしょっちゅう使うならセーリングという機能を使うのが良いかと思います。

キャンピング機能は誰でも想像する事ができます。ですから、ヨットを手に入れようと考えた時、容易に想像できるキャンピング機能が重視されます。そして、ヨットを見れば、どんな事ができるか、だいたい想像する事ができます。一方、セーリング機能は乗った事が無い方にはなかなか想像する事が難しくなります。今まで同ような経験も無いからです。セールさえ付いていれば、どんなヨットでもセーリングはできます。でも、その味わいはヨットによって全く異なってきます。その違いは想像する事ができません。ここが難しいところですかね?

次へ          目次へ