第九十六話 釣りVSセーリング
| 前話で書きましたボートにおける釣りのような、強烈な面白さ、それがヨットに無いか？ヨットにおけるセーリングそのものが、それに値するというような事を書きました。しかし、想像できない事はやれないのが当たり前です。釣りは、陸で経験していますから、ボートに乗る前から、想像できるわけです。あのグッドフィーリングを得たい、得られるであろうと想像して、ボートに乗り込むわけです。 セーリングに、釣りに匹敵するような、強烈なグッドフィーリングがあるなら、もっともっとセーリングが流行っているはずではないかと思いますが、残念ながら、その想像が難しい。では無いのか、と言いますと、これはあると断言できます。ゾクゾクと来る感覚、強烈なしびれるような感覚、それは必ずある。それさえ、想像できるなら、誰もが、あの感覚を味わいたいと想像しながら、技術を学び、知識を得、工夫する事も楽しい行為にする事ができます。その想像が魅力的であればある程、多少の困難さえ厭わない。そういう風になるもんです。 それでは、どうしたらそれが体験できるのか？そこが問題です。釣りはこれが非常に明確なので、誰もが体験できます。でも、セーリングにおいては、理屈では言えない。スピードが何ノット出たら、そういう感覚になるというのであれば、事は簡単ですが、そういう物でも無い。ここが想像を阻む最大の理由かと思います。頭の中で、こうやって、こうして、ああして、スピードが出て、スムースで、快走している。そんな想像はできますが、どんな感じがするかまでは想像できない。釣りのように魚がヒットしたら、こんな感じというのを想像する事が難しい。ですから、もっと想像しやすい、旅や、レースやキャビンでの宴会などに行くわけです。旅は陸でもしていますから、想像できます。レースは子供の頃から運動会でやってます。競争する、勝つ、という感覚が解ります。宴会も同じです。 セーリングだけが、そういうのが無いんですね。ですから、想像しがたい。それはスピードだけでは無いし、敢えて言えば、全てが整った時というしか言い様が無い。全てとは何か？これもまた難しい。これも敢えて言えば、風と波とヨットとその時の操船、それに集中した自分の気持ちが揃う時ではないかと思います。これがどれひとつ欠けてむ無理かも、特に気持ちが大事かと思います。これも抽象的ですね。でも、こうしか言い様が無い。 技術は大事ですが、最重要では無いと思います。ヨットの性能は重要ですが、最重要では無い。風も波も重要ですが、これも最重要では無い。もっとも重要な事は、気持ちかと思います。気持ちが乗っている時、そこに良い風が吹いて、ベストでは無いにしろ良い適切な操船が出来て、そこにヨットの性能がついてくる。そういう時に、突然、しびれるような感覚がやってくる。ベストフィーリングです。その他にもたくさんのグッドフィーリングはある。それは新しい知識を得た時、うまく行った時、それでスムースになった時、これまでうまくいかない事が、新しい知識とやり方でうまくいった時です。それらはグッドフィーリングになる。その為に技術があり、知識があり、ヨットの性能がある。 でも、最も大事な事は気持ちです。気持ちさえ充実していれば、多少の後の事は充分で無くても、グッドフィーリングは得られる。残念ながら、今のところは、この程度しか書けません。 いくら良い走りをしても、気持ちが乗っていなければグッドにはならない。でも、ご心配無く、ヨットに乗って、おしゃべりに興じるとかしない限り、自然と気持ちが集中してきます。陸で何が起こっていても、黙って乗れば、自然に気持ちがセーリングに向かう。ですから、シングルが最も入り易いのだろうと思う次第です。一旦、グッドフィーリングを得れば、もっとと思いますから、その為に知識を得て、技術を得る。全てはグッドフィーリングの為。こうなると、想像できるようになる。頭の中で、グッドフィーリングを思い出して、その感覚を得ようと、神経も集中します。そして、いつか、強烈なしびれるような感覚を得る時が来る。それこそが、釣りに匹敵するような、セーリングの面白さではないかと思います。 釣り人が竿を磨くように、想像できるようになると、ヨットを磨き、ベストコンディションに保ちたいと思う。それも楽しみながら、次のセーリングを想像しながらできる。まだまだ具体的では無いですね。その抽象性がヨットを難しいものにしているのかもしれません。でも、必ずありますから、それを信じて、是非、セーリングを遊んでいただきたいと思います。同じ事をしていても、求める人にしか解らない。是非、求めて下さい。どうやったら良い走りになるかをいつも考えて、走る。そのうち来ますよ。そして、技術やヨットの性能はそのチャンスを広げてくれる手段にはなると思いますね。 ただ、残念な事にこのフィーリングを誰か人に話しても、なかなか解ってもらえません。釣りなら得た魚をあげれば良い。でも、感覚だけはあげる事ができません。その代わり、一旦得たもので、決して奪われない、失う事も無い財産です。魚は無くなるが、感覚は無くならない。物を得る事は大事ですが、この感覚、味わいを得る事も大事かと思います。物と行為にあまりにも重点を置きすぎて、感覚が疎かにされがちですが、この感覚、味わいはとっても人生を潤してくれる。そう思います。物と物との隙間に入って、全てをスムースに動かす役目、これなしではぎすぎすしてしまい、終いには壊れてしまいかねません。ですから、感覚に重点を置いたセーリングをする。それがセーリングの面白さだと思います。 自転車で走る。爽快な気分になる時があります。セーリングはこれのもっと増幅された感覚かなと思います。 |