第九十九話 航海灯

夜間は航海灯をつけます。帆走中は左舷と右舷、それに後部灯をつける。それぞれに角度があって、左舷灯と右舷灯は正面から112.5度の範囲と決められています。正面から見れば赤と緑が見え、左右どちらかに寄ると、片方のみが見える。それが112.5度の範囲まで見えます。それからもっと行くと、今度は後部灯が見えてくる。後部灯は135度と決められ、その半分は67.5度ですから、舷灯の112.5度と足すと、丁度180度になります。つまり、舷灯と後部灯は同時には見えない。

ヨットがエンジンを回している時、舷灯とマスト中間あたりの前部灯を点灯させます。舷灯が112.5度の角度を持ち、両方あわせると225度ですので、この前部灯は225度の角度を持つ。つまり、舷灯と前部灯が見えれば、ヨットかボートかの区別は別にしても、エンジンを駆けた艇がそこに居る。ヨットもエンジンを駆ければ、ボートと同じとみなす。

そして停泊灯は360度、つまり、停泊中はこのライトひとつを点灯する事になっています。従って、これらの点灯の仕方で、姿の見えない艇の航行の方向を知る事ができます。これは世界共通です。

ちょっと前は海外製品の航海灯は日本では設置許可がおりませんでしたので、日本製に全て交換していましたが、規制緩和の波で、最近では海外製品も試験に合格すれば設置許可が出るようになりました。そこで、あるヨットの航海灯の許可を得る為に試験に出したのですが、後部灯が不合格。帆船においては前記の135度以外に、上下25度から見ての一定の光量が必要だそうです。
上部25度は解る。しかし、下部25度は海しかないのに何故かと問うても、規定ですとしか帰ってこない。まあ、兎に角、でっかい帆船で、後部灯が高い位置に設置してある場合は、そうも考えられるが、一般のプレジャーヨットでは位置は低い。しかし、そういう配慮は無い。従って、今回の後部灯の試験は不合格。上部25度はOKだが、下部25度の明るさ不足という事でした。さて、どうしたもんか?まあ、日本製に交換すれば事は簡単なのですが、日本製はどうもデザイン的によろしくない。せっかくのヨットのデザインが、これではちょっと、という事になる。

それは兎も角、航海灯というのは、誰が考えたかは知りませんが、うまい事考えたものです。これで、近づく艇がどっちの方角に向かっているかが解る。道路信号と同じで、相手の緑が見えたら、こっち優先、赤が見えたら向こう優先、両方見えたら、相手は真っすぐこっちに向かっている。赤か緑のどちらかと白灯が見えたら、ボートまたはヨットのエンジンがかかった艇、舷灯だけならヨット、
白灯だけなら相手は離れていくか停泊中。

こういうルールではありますが、こっち優先だとしても、近づかない方が無難。相手に譲ってでも避けた方が良い。相手がこっちを見ている保証はありません。ぶつかった後、こっち優先だったと主張するより、事故は避けた方が良い。

厳密に言うなら、航海灯もさる事ながら、設置の正確さも必要になる。いかに航海灯が正確でも、設置の仕方が悪ければ、角度が変わる。これについてはだいたいなんですね。ある部分は厳密に、でも、別な部分はだいたい。たまに向きが変な方向になっているのも見る事がある。

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