第四十話 ヨット

セーリングをしていて、その日一日中最高の走りをするという事はありません。でも、瞬間かもしれませんが、良い加速感を感じたり、見事な走りを感じたり、そういう時のフィーリングはしびれますね。わずかな時間かもしれませんが、時折やってくるそういうフィーリングを得る事ができるというのが、ヨットを続ける理由かもしれません。貴重な時間です。短い時間かもしれませんが、他では味わう事ができません。

普段は、シートの出し具合やリードブロックの位置はこれで良いのか、セール上部と下部の状態はどうか、そんな事を考えながら舵を握る。そうこうしながら、時折ふっと起こる加速感にぐっと来る。
風が上がってきて、加速しながら、滑らかに走り出す時の快感、それが何とも言えません。いつもでは無いが、たまに起こる快感があるからこそヨットはやめられない。

そういう時の為に、普段はセールを考える。そこそこ吹いてくれれば、多少セールトリミングがまずくても、ヨットは走る。しかし、風が落ちると難しい。反応が微妙になるので、こちらも繊細さが要求されます。これは難しい。

強風になると、怖い。うまい事風を逃がさなければならないし、作業もしんどくなる。そういう意味では難しくなる。しかし、微風から強風まであるのがヨットだし、それを全部含んで面白いと感じる事ができれば、セーリングはさらに面白くなる。そのヨットが持つ難しさは、自分の知識と経験によって、徐々に克服していく事ができる。それがまた面白い。乗りこなすとはそういうもんかなと思います。10年も20年もかかって、その度ごとに何か新しい体験をする事もある。

セーリングはこの難しさをどうするかにかかっているのかもしれません。より適切な設定というのはたくさんある。それを自分の経験からどういう風にしていくか、これが自分のスタイル。そのスタイルを創る。長い事かかって創るこのスタイルは、自己満足かもしれませんが、面白さに繋がる。ヨットはちょっと習えば、すぐに乗る事はできる。しかし、セーリングをもっとどうにかしようと思えば、ちょっと習ったぐらいじゃ分からない。難しいもんです。その難しさに挑戦するか、しないか、これによっては自分の乗り方は全く違ってくるのではないかと思います。もちろん、どっちが良いとか言う問題では無い事は言うまでもないことですが。

難しさに挑戦すると、夢中になってしまう。それがこの良さです。他の事なんか考えている余裕は無い。ドラフトの位置は良いか、深さは良いか、リーチの開き具合はどうか、舵を持ちながら、いろいろ観察をする。そこにおまけに風も変化するから、より複雑になります。ここに面倒臭さを感じる前に、知識をまず増やす事が必要かと思います。次第に謎は解けてくる。そうこうしながら、しびれるような走りをする時があります。それが面白さの秘訣かなと思います。そんな時は実に気分爽快です。のんびりしてきた時とは違う快感であります。レースをしなくても、セーリングするだけでも、ヨットは面白い。のんびりしなくても、体は多少疲れても気分は爽快であります。

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