第五十七話 スリル
| スリル、恐怖感では無く、わくわくするような緊張感です。そういう類の事を求める人は居るものです。プロで無くても、アマチュアのカーレースを好む人、ちょっと本格的な山登り、アイガーの北壁に登る人、スキーでも山スキー、サーフィン、その他いろいろあります。これらはアマチュアである限り、遊びの部類に入ります。決して享楽的な楽しさでは無く、それどころかしんどい事の方が多い。しかしながら、それでもやるというのはスリルを味わい、そしてそこに快感があるからだと思います。 ヨットにもそういう人が居ますね。世界一周しようなんてのは、そういう類でしょう。セーリングの中にもそういうスリルがあります。デイセーリングの中にもある。スリルを感じる時、わくわくするような緊張感の時、何も考える事がありません。何をどうして、こうしてなんて考えない。ただひたすら無になって、それでも緊張感がありますから、即座にいろんな事に対応できる状態です。 スリルがもたらす緊張感は、誰をも無にさせ、感じる事が全てになる。そういう時こそ、しびれるようなセーリングを味わえる瞬間でしょう。何も危険と隣合わせでは無くとも、自分が無になった時にこそ、同じようなしびれるようなセーリングが訪れる。つまり、スリルはそういうものをもたらすきっかけになりますから、それを求める人が居ますが、何もそんな状況にならなくても、自分が無になった時、そういう準備ができている。 たいした緊張をする場面では無くても、たまたま神経が集中し、今のセーリングをひたすら味わっていた時、ふっと見上げた夕日が目に飛び込む。その何ともいえない光景を味わった事がありますが、何とも表現しようも無い感覚だったと今でも覚えています。スリルはそのきっかけを与えてくれますが、やりようによっては、そういうスリル無しでも、集中さえしていれば、余計な事を考えないようになれば、同じ感覚を味わう事ができるのだろうと思います。 ヨットがどんな感覚を与えてくれるのか？残念ながら、ヨットによってはその反応があまり宜しく無いものもあります。いくらセールトリミングしても、それに応えてくれない、或いは、ほんのわずかで解らないヨットもあります。そんなヨットにおいて、セーリングに集中するというのは、なかなか難しいものがある。つまり、これはタイプが違うという事になります。 ヨットに対して何を求めるか？それによるわけですが、セーリングの面白さを求める時、やはり、反応が良いヨットの方が解り易い、入りやすい、感じやすい。以前は、それはレーサーであっただろうし、スポーツヨットであったでしょう。しかし、それには多くのクルーを要した。しかし、今日、デイセーラーのお陰で、シングルにおいて同じように反応の良いセーリングができるようになった。この事は新しいジャンルとして良いだろうと思いますし、有難い事だと思います。全ての方々がこの手のセーリングを求めるという事は無いとは思いますが、でも、一旦味わうと病みつきになる方は、本当は多いのではないかと思います。レースはしないからと今まで避けてきた事かもしれませんが、セーリングは陸上には無い、ヨットにしかない味わいです。どうせなら、最高のスリルを味わってみてはいかがでしょうか？わくわくする緊張感、無になった状態、感覚だけの世界。 クルージングというのは、また別の世界でしょう。それは旅がもたらすスリルかもしれません。知らない土地に行く緊張感こそが、旅のスリル。そこに何があるのか？同じようなスリルがあり、でも世界は異なる。ヨットは冒険であり、スリル、その合間にゆったりした時がある。ゆったり間だけでは、何年ももたないと思います。 スリルとは言いましても、大袈裟なものでも無く、緊張感を楽しむという事かと思います。緩和だけでは面白さに欠けるようになるので、緊張感の大小はあるでしょうが、少しづつその緊張感を楽しめれば、或いは、集中力を高めれば、同じように味わえる何かがあると思います。 クルージング艇は旅をしてこそ、そのスリルを味わい、セーリングヨットはセーリングにそのスリルがあります。種類は違いますが、どちらもヨットならではの緊張感、楽しさ、面白さであると思います。寛ぎももちろん必要ですが、そこには緊張感が無い故に、なかなか長期や頻度において、しょっちゅうは使いづらいのではないか？と思うのですが。それで、ちりばめた使い方が最もメリハリが効いて良いような？ |