第七十話 起承転結

本を読みますと、最初に導入部分があり、だんだんと盛り上がって、最後にしめる。こういう山と谷が無いと面白くありません。テレビのドラマも同じです。全体の山と谷、そしてその部分部分にも同じように小さな山と谷がある事によって、面白さを感じます。これは音楽も同じで、イントロから始まり、徐々に盛り上げて、最後に落ち着く。スローなテンポであろうと、速いテンポであろうと、同じように起承転結が無いと面白く無い。

ヨットの場合も同様で、この起承転結がほしい。出航から始まって、快走セーリング、そして最後に落ち着く。これが理想ですが、何しろ、自然相手なもんですから思った通りにはいかない。この最も盛り上がるべき快走が思うようにならない。さて、どうしたもんか?セーリングを面白くするには、この起承転結をつけるにはどうしたら良いか?風がある程度あれば、やり易い。しかし、風が無い時、微風の時、どうやって起承転結をつける事ができるのか?強風が過ぎれば、快走を飛び越し、苦しさにもなる。

本にしても、音楽にしても、面白いのもあれば、そうで無いものもある。全てに起承転結はあっても、その展開に好き嫌いがある。そこで、本や音楽は自分で選ぶ事ができる。好きな本、音楽を好みに応じて選ぶ事ができる。本も音楽も人工ですから、選ぶ事はできる。しかし、自然はそうもいきません。天候を予想して選ぶ事はできる。しかし、必ずしも期待通りに展開するとは限らない。

内容の展開の仕方もありますが、文章の表現力もある。音の美しさや音程の上下もある。長く親しんできた文章や音楽には、そういう細かい味わいをも味わう準備ができています。しかし、ヨットに対してはまだそこまではいきません。ひょっとすると、この先、微風での味わいをも味わえるようになるのか?微風の中にも起承転結を見出す事ができるのか?

程よい風の時は誰でもが楽しめる。しかし、微風の時、強風の時はそうもいきません。この二つは上級者レベルなのかもしれません。上級者は微風時の繊細な動きを感じ取る事ができ、強風時でもそのコントロールができる。そこで考えられる事は、我々はその微風と強風の二つを楽しむ為に、ヨット本体に助けを借りるのが良い。ヨットの性能が高く、この二つにおいても、その性能を発揮してくれるのであれば、多いに助けになる。微風時にも、反応が良いのなら、感じやすい。強風においても、スタビリティーが高いのなら助けになる。よって、初心者ほど性能の良いヨットに乗る方がセーリングを楽しむ事ができる。それで、実は上級者だって、性能が良い方がもっと楽しめる。まあ、性能が良いにこした事は無い。性能の良いヨットはオーナーを助けるオーナーの味方。性能の悪いのはオーナーに余計な負担を強いる。

良いヨットはこの起承転結が付け易い。見た目には解らない。ちょっと乗ったぐらいじゃ解らない。いろんな場面に遭遇してはじめて、そのヨットが解る。まあ、プロはだいたい解るかもしれませんが。それで、セーリングを遊ぼうと思われる方には、できるだけ良いヨットに乗って頂きたい。同じセーリングでもその質が違う。フィーリングが違います。ヨットを遊ぶというのは、このフィーリングをいかに味わうか、そこに大金をはたいている。滑らかさを感じると本当に気持ちが良いものです。物を手に入れるのですが、本当はフィーリングを手に入れる。速さだけでは無く、全体の味わい。

次へ       目次へ