第二十五話 半径10マイルの楽しみ

半径10マイルと言えば、結構な広さがあります。デイセーリングを楽しむには、日常的にはこのぐらいの範囲でしょうか?この範囲に何があるか?島々が点々とあれば、変化に富む。これはなかなか面白いロケーションです。でも、なかなかそうはいきません。半径10マイルに何も無いとしても、セーリングなら遊ぶ事ができる。

島々があるところは、島周りで遊ぶ事ができますが、何も無いとしたら、風の方向で遊ぶ。上りから下りまで、あらゆる角度を遊ぶ事を考えたら良いと思います。風上に上るというのは、セーリングの醍醐味のひとつ。セールを一杯引き込んで、船体のヒール角度のバランスを取って、風を取り込み、逃がし、そういうコントロールを楽しむ。スピード感が最も感じられる。そこに波が来て、また微調整。舵をちょっとでも操作ミスをしますと、セールの裏に風が入る。緊張感もあり、スピード感もあり、集中できる場面です。集中できるというのは、面白いからです。

タックして、またスピードを取り戻し、上る。うまく、滑らかにできたら気持ちが良いもんです。この走りだけでも、風向が変わったり、風の強さが変わったりして、その都度、調整をする。それが面倒では無く、面白さになります。

ちょっと落として、少しリラックス。リラックスしたら、今度はもっと落としてダウンウィンドを遊ぶ。
船体はヒールしませんが、充分に風があるなら、緊張感を伴う。ジェネカーを使えるなら、それを展開して、ダウンウィンドの緊張感を楽しむ。ワイルドジャイブをしないように、舵取りは慎重に。
ここでも風は変化しますから、充分に楽しむ事ができる。

効率は兎も角、観音開きという、真後ろからの風を受けて走る手もある。特に舵操作には注意が必要になります。でも、この緊張感を味わいたいなら、これも良い。

そうやって2,3時間の緊張感を味わってきたら、マリーナに帰って寛ぐ。コーヒー一杯、コクピットで味わえば、緊張感が放たれた安堵感を味わえる。あるアルピニストと言うんでしょうか、山登りをする人に言わせると、頂上に登った時より、下山して緊張がほぐれ、ビールの一杯を頂く。この感じがたまらないので、また登るという話でした。緊張の度合いの違いはあれ、これと同じでしょう。緊張感が高い程、安堵感も高い。その緊張感のレベルを自分で選べるわけですから、デイセーリングは実に便利であります。

風が無い時はどうしましょう。漂う感じを味わう。マリーナでヨットのメインテナンスをして遊ぶ。周辺の人達と会話を楽しむ。風が無いと、燃料が無い車と同じですから、そういう時は別な手を考える。本を読むのも悪く無い。音楽を聴きながら昼寝する。掃除をする。各部の動きを確認する。やる事はいろいろあるもんです。

半径10マイルと言えども、海は海、そこには充分遊べるだけのフィールドがあります。波もあれば、強風もある。セーリングを充分遊べるだけの全てがある。夜間航行もこなせるようになると、幅はもっと広がる。夜のセーリングが終わったら、その日はそこで船中泊、それなら一杯飲めます。そういうのも、なかなかおつなものではないでしょうか。スポーツした後の寛ぎは、心地良いからだの疲れ、アルコールが回って、実にゆったり眠れます。最高の癒しですね。これぞヨットの醍醐味かもしれません。

これを日常の習慣として、毎回同じ事して面白いのか?これが面白いんですね。但し、集中できる緊張感をいつもどこかで持つ事が大事で、それには風も波も勝手に変化してくれますから、後は自分次第、風さえあれば、集中して緊張感を保つ事は難しくないと思います。

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