第二十九話 出入港(初心者の方へ)

誰もがヨットを始める時に、最初に悩まされるのが、マリーナからの出入りかと思います。ヨットにはたくさんのロープがあって、それらをコントロールするのは難しい様に思えますが、それよりも、出入りの方が難関かもしれません。逆に、これさえ、自由自在に出来るのなら、その後のセーリングは楽しみながら少しづつレベルアップしていけば良い。ゆっくりで良いわけです。しかしながら、出入港に関しては、ベテランも初心者も、同じようにうまく出て行かなければなりませんし、これが上手にならないと、出るのが怖くなるかもしれません。特に風がある時は。

セーリングは風が無いと走りませんから、風が無い時に出ても、面白さは激減します。それで、風がある時にも楽に出航できなければ、面白さを味わう事ができなくなります。ですから、最初に慣れるべきは、セーリングよりも、エンジンを使った操作という事になると思います。誰かに載せてもらって、何度もセーリングを経験していても、自分がオーナーになったら、自分で出入港をしなければなりません。セーリングと出入港は、別物です。これさえ、楽にできるようになれば、セーリングは長い時間をかけて、ぼちぼち楽しみながらやっていけます。

舵さえきれば曲がるかと言いますと、曲がりません。考えてみれば当然の事で、ヨットは動いていないと、水流が舵に当たらないと曲がらない。出航の時は停止状態ですから、エンジンでバックしようという瞬間は水流が無い。少し動き出しても、水流は少ない。ヨットによっても動きは違いますが、ある程度の水流が舵に当たらないとヨットは曲がりません。この動きがが鈍いと、大きくしか曲がらないし、敏感だと小回りが効く。いずれにしろ、とりあえずは真っ直ぐ出て、ある程度の水流を得たら、舵操作で曲がる。

エンジンの操作はすぐに慣れてくると思います。しかしながら、悩ましいのは風です。ヨット乗りは風がいつも気になります。どっちの方向から、どのくらいの強さで吹いているかです。それによって、出方が違ってきます。この風に逆らうと、いくらエンジンのスロットルを上げても、負けてしまう事が多いので、風を味方にしなければなりません。ヨットはいつも、風を味方にできるかどうかです。

マストトップのウィンデックスを見ますと、風向は解る。係船されたヨットの係船ロープを見ますと、ピンと張るロープと緩んでいるロープがありますから、それを見れば、どっちに流されるかもわかります。今、全ての係船ロープをはずすと、ヨットはどう流されるかです。

それと船底形状を考えますと、キールがあり、後部にはラダーがある。そして、前側には何も無い。という事は、前側に抵抗が少ないので、風が吹けば、前側が先に風下に流されます。という事は、前側を風に向かって上らせるのは、エンジンを使ってしても、風の強さによってはできない事になります。風の強さと方向、それに自分のヨットの性格を見誤ると、思わぬ方向に流されますから、これを体験しますと場合によっては怖くなります。他のヨットにぶつけるようなかっこ悪い事はしたくないからです。それで、出航回数が少なくなりますと、せっかくのヨットが、入り口でつまづく事になりますので、ここは是非、慣れておかなければなりません。

では、頭の中でシュミレーションをしてみると良いと思います。風向によって、バウはどっちに流されるか?風が強い時は、進行方向を舵で決めるよりも、風で流されて、決める。じっとしていても、風で流されて、バウが思う方向に向く時はOK,でも、逆に、バウを向けたい方向から強い風が吹いてくるなら、それは諦めた方が良い。エンジンをふかしても、バウはその方向に向かない。何故なら、ヨットの動きが少ないので、水流不足です。それで、こんな時の為に、バックで出て行く方法を是非、慣れていただきたい。ある程度広い場所まで、バックで出るということです。これは是非、誰かについてもらって、練習をしていただきたいと思います。そうしますと、出入りはかなり楽になります。出航する時、前進で出るか、バックで出るか、風の強さで迷う時は、バックで出れば、間違い無い。

帰港する時は、その桟橋に至るまで、走ってきますから、充分な水流があります。という事は舵が良く効きます。後は、桟橋との距離感、これは何度もやって慣れるしか無いですね。この時も、風が影響します。停止して、風はヨットをどっち方向に押しやるのか?桟橋側なら、ゆっくり構えていても、桟橋にヨットがくっつく。でも、逆なら、素早くしないと、桟橋から離れていきます。それで、桟橋につけたら、どう対応するかもシュミレーションしておくと良いと思います。出入港に慣れたら、もうこっちのもんです。ついでに、前に書きましたPROP WALKも参考になると思います。

ヨットは風で走ります。しかし、場合によってはその風がある為に苦労する。よって、常に風を味方にする為に、風向と風速を考える。そこがヨットの妙であります。これを嫌うよりも、その妙を楽しむように、その風をうまく味方につけられる自分を楽しむように、そういう風に考えた方が面白くなると思います。人は大抵、何かあると、それを制御しよう考えます。その為に機械を発明したりと、進化が生まれます。それはそれで良いのですが、そのままを自分の腕でコントロールしようと考える事もできます。ここに面白さが生まれることもある。

最近では、比較的大きなヨットでも無いヨットにバウスラスターなる機械が設置されている事もあります。これはこれで、便利ですから、バウを思いの方向に機械で向ける事ができますので、これも賛成であります。ただ、敢えて、そういう機械を使わずに、ヨットをコントロールしようと思う面白さもあります。どっちでも良いのですが。まあ、無理をする事はありませんが。いつも、自分の面白さには注意を払っていた方が良い。いかに、面白さを造るかです。

便利を求めて、自分の面白さを無くしては、ヨットは遊びでは無くなりますね。キャビン滞在でも、出入港でも、セーリングでも、どこに自分の面白さがあるか?ちょっと何かありますと、すぐに便利機械を思い浮かべるのでは無く、そこに面白さを見出せないかと考える事もできます。人は簡単な事には、面白さは沸かない。ちょっと難しい事、そこに到達できるところに面白さを感じるかと思います。でも、一方で、便利を利用するのもおおいに結構だと思います。矛盾しますが、要は、その難しい事のハードルの高さによると思います。ハードルを越えるところに面白さがあります。でも、ハードルが高いと面白く無い。その高さをどう感じるか?そこが自分の面白さではないでしょうか。
ある人にとっては、ハードルは高いと感じ、別な方にとっては低いと感じる。結局、面白さは自分の中にあるという事かもしれません。それぞれが違う事になります。それで、目の前のちょっと高いハードルをクリアーする事が、面白さの秘訣かもしれませんね。それは、セーリングに限らず、出入港にしても、うまくなっていきますと面白さを感じる事もできます。もし、そこに面白さを感じたなら、バウスラスターを設置している人より、ひとつ多く面白さを感じている事になります。

遊びの達人は、どこにでも、何でも面白くする事ができる。ヨットの達人よりも、遊びの達人になった方が面白いという事になります。何もプロセーラーになるのが目的では無く、遊びが目的ですから。面白ければ、うまくなる。
うまいのが必ずしも面白いわけでも無いが、面白いとうまくなる。

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