第五十四話 セーリングのマジック

好きな事をするのは誰でも大歓迎です。音楽が好きな人、スポーツ、絵画、陶芸、映画、読書、いろいろあります。しかしながら、断言はできませんが、もし、今、何か問題を抱えている時、心の中は怒りや不安などの心境にあります。そういう時に、好きな音楽を聴いて、楽しむ事ができるでしょうか?絵画や陶芸に集中できるもんでしょうか?

楽しい事をしよう、好きな事をしよう、でも、いついかなる時でも、やって楽しく過ごせるものでしょうか?好きな事をしながらも、心ここにあらずという事になりそうです。そこがセーリングとは違うような気がします。どんなに悩みがあっても、不安があっても、海に出てセーリングし始めますと、何故か、陸上の事を忘れてしまう。そんな気がします。どうせ、今考えても仕方が無いと思うのか、切り替えが即座にできるように思えます。これはマジック、セーリングのマジックではないかと思う次第です。

海という隔絶された世界に移るという状況もあるでしょう、ヨットは安全とは言っても、船底の下は不安定な深い海です。どんな時でも、多少なりとも、緊張感は陸上とは違います。そういう状況が、気分を別の世界に追いやり、そこにすんなり集中する事ができる。まあ、他の方々にも聞いて確かめたわけではありませんが、少なくとも、私にはそんな感じがします。自然の力かもしれません。苦労して上った山の頂上に立つ時、晴々とした気分にもなります。世間のごたごたが小さく思えてしまう。これも山の効用。だとすると、自然の力でしょうか?山に登るのは時間も必要です。でも、海ならすぐです。

セーリングには、セーリングするという行為が、人をそこに集中させる。そして気分もそこに集中できる。その2〜3時間ばかりの気分の切り替えかもしれませんが、その他へ集中できるという事で、陸に戻っても、その前の気分とは異なります。抱えた問題は何ら変わってはいないにしても、新たな気分で取り組む事ができそうな気がします。これがセーリングのマジック。

言葉を変えれば、セーリングに集中する事で、新たなるパワーを充電できているようにも思えます。そこで、気分が良い時だけでは無く、チャンスがあれば、セーリングに出てみてください。海に出るだけでも、気分はがらりと変わるかもしれません。リフレッシュできるかもしれません。

読書や絵画、音楽鑑賞などは切り替えが難しいかと思います。それより体を動かすのが良いのかもしれません。それにプラス、ヨットは海という別の世界に出るという行為が、それをさらに助長する。ここにヨットの別な面があると思います。通常とは全く違う環境に身を置く事と、体を動かす事、それに多少なりとも緊張感がある事、これらがその原因かもしれません。そういう意味ではヨットは最も手っ取り早くできるのではないかと思います。

ところが、レースになりますと状況はがらりと変わります。前にも書きました通り、イラつく事もあるわけです。何が一体違うのか?それはああだったら、こうだったらと思うからでしょう。無い物ねだりです。それさえ無ければ、レースも完璧に楽しむ事ができる。つまりは自分次第という事になります。しかし、それでも尚、終わってしまえば、気分は悪く無い。

ストレスを解消するとかの場合、ゆったり、のんびりでは無理ではないか、一旦はもっと緊張させて、その後にゆったりする方が効果的とも聞いた事があります。ヨットでのんびり、ゆったりする時は、気持ちが安定している時、コクピットに座って、読書でもしても良いかもしれません。でも、ストレスがある時は、ヨットを出すに限る。そこには少なくとも緊張感が出てきます。

という事で、セーリングは、いろんな効用を発揮するのではないか、と思うのですが?まさしく、マジックなのであります。こういう場合も、ひとりでさっと出せるというのは、有難い事かと思います。
ついでながら、シングルでのセーリングは、こういう効果が絶大であると思います。賑やかも良し、シングルも良し、あらゆる場面に臨機応変に対応できるようにしておくのが良いような。

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