第五十六話 造船の種類

建造には種類があって、我々が一般的に目にするにが、プロダクション艇です。仕様が既に造船所で決まっており、装備については、造船所が設定したオプションリストから選ぶ事ができます。これも造船所によって異なりますが、少しのオプション設定で、あまり選択の余地が無い造船所もありますし、かなり豊富に設定している造船所もあります。

日本人にとっては、何でもついている方が、つまりオプション選択が少ない方が良いように思いますが、それは造船所にとっても同様、その方が楽であります。しかし、俗に良いヨットの方がオプションは多いようです。例えば、セール。セールと一口に言ってもピンキリです。一般的には既に造船所の方で標準設定していますが、オーナーによっては、どのメーカーのどのセールが良いというのが出てきます。そういう場合、オプションなら、自由に手配ができます。

次に、多くはありませんが、セミカスタムという建造があります。これは、ハルとデッキのデザインは決まっており、内装についても基本デザインがありますが、選択の範囲が広くなります。一度だけ、過去にセミカスタムを取り扱った事がありますが、内装の変更はもちろん、素材の選択、追加的な作業も依頼できます。もちろん、先方デザイナーとの話になりますが、兎に角、オーナーの希望仕様を大きく反映する事ができます。装備にしても、どこのメーカーのどのタイプとかも指示する事ができます。こういう作り方というのは、造船所にとってはやっかいなのですが、そこに敢えて、応えていこうとする姿勢がある造船所というのは、そういうレベルなのです。

以前、このセミカスタムに関わった時の事ですが、こちらからいろんな要求をしたわけです。オーナー側も、セミカスタムを造るからには、相当なる経験者ですから、それなりの知識もある方でした。
それで、様々な要求を出すのですが、部分的には、デザイナー側が駄目出しをしてくる事があります。それは、物理的に無理ならオーナーもすぐに納得ですが、そうでは無く、性能的な部分になりますと、難しくなります。それで、オーナーは俺の言うことを聞けと言われ、デザイナー側はオーナーを説得してくれと、こういうやりとりがいろいろ出てくるわけです。それが私の役目だったわけですが、当時はメールなど無く、ファックスで行いましたので、最終的にはそのファックス用紙の束の厚みが15cmぐらい積み上がりました。

造船所がビジネスとして、儲かるのはプロダクション艇でしょう。でも、敢えて、ややこしい造船をしている造船所というのは、ビジネスですから儲かりたいと思うでしょうが、同時に良いヨットを作りたいという意欲が感じられます。年間に造れる艇数も少なく、一艇にかかる手間は膨大です。でも、その分良いヨットを建造したいという誇りが感じられます。ですから、向こう側も、全てにおいて、何でもオーナーの言うとおりとはいかないわけです。で、いろいろありましたが、結果、素晴らしい艇が出来上がりました。オーナーからも感謝の手紙を頂いたくらいです。 

さて、さらに進みますと、完全なカスタム艇という事になります。まずはデザイナー選びから始まって、デザインに対するオーナーの要求、ここにもいろんなやりとりになって、今度はそれを作る造船所を選び、そして建造する。実は、デザイナーが描いたデザインは、どこで造っても同じかと言いますと、全然違ってきます。品質は、その造船所の品質であり、デザイナーの品質では無い。デザイナーはボルト1本づつから指定するわけでは無く、全体のデザインを描き、詳細は造船所に任される。よって、造船所によっては異なる事になります。例え、見かけは同じでも。

一度だけ、80フィートのカスタムに関わった事があります。最終的には成立しなかったのが残念ですが、実際に、何人かのデザイナーにもあたり、図面も描いてもらいました。このサイズになりますと、ハルとデッキや艤装のデザインとは別に、内装のデザイナーが登場してきます。内装で有名なデザイナーも居ます。そして、造船所を選んで、着工になるのですが、この件はわけあって途中でストップしてしまいましたが、こういうスーパーヨット専門のデザイナー、造船所があるわけです。
こういうスーパーヨットの場合、実に面白いのですが、実際は、最初の時点から、完成に至るまで、数年はかかる。よって、これを見越して、業者が先に動いて準備をしている。オーナーが買おうとする時、最初からやって数年かけても良いわけですが、既にこういうのがあると、これなら納期はあまりかからない。それに状況によってはまだ変更もできる、というビジネスが成り立つわけです。実際、こういうのは多いようです。日本では考えられませんが。

プロダクション艇はもちろんモールドを使って建造するのが最も効率が良い。セミカスタムにおいても、ハルとデッキは決まってますから、モールドを使う。それがカスタムになりますと、オーナーによって違ってきますから、だいたいアルミなどが多いし、最近では木造も結構多いようです。昔の木造とは違い、ウエスト工法によるエポキシ樹脂のコーティング、それに外皮にはFRPを積層して、メインテナンスは特には不要。見た目には解らない。でも、敢えてそうするのは、振動を吸収するとか、いろんなメリットがあるからです。但し、もし、ぶつけたりした場合、それを修理できる人が必要になりますね。日本ではどこにでもそういう職人さんが居るわけでは無いので、なかなか難しいかもしれませんが。造船所に聞きますと、簡単な事とか言いますが。

さて、いろんな建造の仕方があるわけですが、もちろん、完全プロダクションの手間ができるだけかからないのが最もコストが安く済みます。手間をかければかけるほどに価格もあがる。でも、品質ともバランスが取れているように思います。どこまでこだわるか?それだけですね。

日本には既に多くのヨットは輸入されてきましたが、その殆どはプロダクション艇です。世界にはたくさんの造船所があります。それらを当HPで紹介していきたいと思います。お遊び気分でご覧頂ければ幸いです。トップページから、世界の造船所に進んでください。まだまだ少ないですが、徐々に増やしていきたいと思います。

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