第六十話 ヨットマンズボート
1990年代、ヨットビルダーがこぞってパワーボートの建造に乗り出しました。それはヨットオーナー達の高齢化、クルー不足等々によってヨットから離れが見えてきたからのようです。特にクルー不足、それに何人ものクルーをキープする煩わしさもあったようです。彼らを海に留めておく為のボートという事です。 当初はトローラーが注目されたようです。何も高速で突っ走る必要は無い。ヨットのクルージングの延長のような感じで、エンジンも小さめですが、トローラーよりは少し速い巡航速度、いざという時は20ノットぐらいは可能ですというものです。そこで称してヨットマンズボートと呼びました。ゆったり乗れて、簡単に動かせる。エンジン音も比較的静かですし、どこを走るにしても潮流を気にする事も無い。沿岸の旅を楽しむにはもってこいのボートです。 確かにセーリングとは違いますが、それまでもヨットで走るにしてもエンジンを使っていましたし、燃料は食いますが、実用的ではあります。スピードをそれほど求めなければ、V船型で波に強いハルにできるし、それでいて大きなパワーは必要無い。 当社扱いのトゥルーノースは敢えて1基がけにして、極力エンジン音を抑え、バウスラスターを標準装備にしており、巡航は20ノット以下です。これぐらいのスピードで走れば、あの高速艇の波に打つ衝撃はかなり少ない上に、V船型によって柔らかい波当たりになります。 一方で、それでもやっぱりヨットの方が良いという方々もおられるわけですが、それで注目を浴びてきたのがデイセーラーというヨットです。もはやクルーを必要とせずに、シングルで簡単に動かせる。しかも帆走性能も良い。 ところが、やっぱりもっとキャビンがほしいという人も居て、結構海外の方々はキャビンで過ごすようです。日本人と違って。そういう要望から、でかいデイセーラーというのに発展していきます。同じコンセプトながら、現在では60フィートというのもあるぐらいです。 今日では、かつてのヨットオーナーが、高齢やクルー不足から、ヨットマンズボートに行く人達とデイセーラーに行く人達に分かれているようです。そういうマーケットが広がってきますと、違う見方も出てきます。ボートにしても、ヨットのようなファミリークルージング的な見方があり、難しい操船技術も不要で、静かだし、何も30ノットで走る必要も無い。波に強くて、安心して家族で遊べるという事で、一般的にもなり、マーケットは拡大してきました。 一方デイセーラーはその帆走性能の良さ、クルー不要、そういう事がうけて、さらに進化させようとハイパフォーマンス艇が続々と生み出されていきます。つまりは、それまではキャビンがある程度大きくないといけなかったのが、デイセーラーの誕生で、狭いキャビンでも受け入れられるようになった。そのお陰でセーリング性能が良くなった。それも簡単操作でできる。 あるデザイナーの言ですが、ヨットマンの一部はボートに移行しつつある。しかし、その中でもやはりヨットに戻りたいと願う人達が少なからず居るはずだという事で、デイセーラーを作ったそうです。 これもオーナー達が時とともに変化する状況によって変化していきます。結婚した時は二人、子供が出来て、成長して、親離れしていけば、また二人に戻る。その家族構成によっても変わってきます。日本では、なかなかファミリークルージングという言葉はありますが、あまり主流では無いようです。奥さんは紫外線を嫌うし、子供だって、親よりも友達優先だったり。それで、お父さんは、仲間を誘ってのセーリングの方が多い。 多分、家族がしょっちゅう来て、一緒にヨットライフを楽しむのが主流になるなら、キャビンはもっと活かされるのではないかと思います。それこそ別荘的感覚として使える。キャビンは家族と過ごすのに最も効果を発揮するのではないかと思います。残念ながら、日本は家族が来ないので、キャビンはあまり使われないと思うのですが?お湯は出る、冷蔵庫もある、キャビンは広いし、おまけにエアコンだってあるヨットもある。でも、家族が来ないなら、あまり使われない。マリーナ設備の問題もあるかもしれません。エアコンは発電機が必要ですが、ヨットにあまりそういうスペースが無い。でも、マリーナに陸電があれば、それを使ってエアコンが使える。発電機の騒音も無い。それに、マリーナの周辺環境の事もあります。マリーナ及び周辺が楽しい場所であれば、家族は来るかもしれません。 アメリカのマリーナデルレイという所がありますが、マリーナを囲むように、いろんなレストランがあったり、ショッピングがあったり、それこそいろんな施設がある。それで、ヨットを見ますと、たくさんの人達が、ヨットを出さずに、ぶらぶらしてたり、奥さんが編み物してたり、親父はコクピットでビール飲んでたり、いろいろです。環境のせいでしょうか? 日本の場合はマリーナ単独で、そこにある。それだけではなかなか何日も居れないし、毎週という事は考えられません。アメリカでは、金曜の夜にマリーナに行って、月曜の朝、マリーナから出勤するという話も聞いた事があります。楽しいマリーナは家族も来るし、楽しいマリーナはヨットを出さなくてもそこで遊べる。楽しいマリーナは別荘にもなる。よって、彼らには、大きなキャビンが必要なのでしょう。マリーナをぶらぶら歩くだけで、楽しさがそこにある。 遅めの朝はレストランでブランチ、夜はジャズクラブで楽しむ。寝床は自分のヨットの中。ケーブルテレビだってあります。まさしく、別荘そのものではないですか。映画だって見れます。まさしくリゾートなのです。そんな設備がありますから、ヨットに関係無い人達も大勢来て賑やかです。でも、彼らは、ゲートの外からヨットを見れますが、中には入れない。オーナーの特権であります。 話がそれてしまいましたが、ヨットマンズボート、デイセーラー、キャビンヨットに対する考え方については、だいたいこんなもんだろうと思います。セーリングがどんなにエキゾチックで魅力的であるにしても、家族はだいたいそのほんの一部で良いと思っている。それより、マリーナの周辺に魅力ある設備があった方が良いわけです。そのマリーナでリゾート気分を味わえるのが良い。その施設が無いなら、家族はセーリングのほんの一部を味わうだけ。という事は年に何回来るか?という事で、ファミリークルージングというのは、日本では成り立たない? ちょっと沿岸の旅を楽しむなら、何時間もかけてというより、ヨットマンズボートで早く到着した方が合理的だし、家族にとってもいい。或いは、家族が来ないなら、デイセーラーで、セーリングそのものを楽しむのが良い。と思うのですが? |