第六十六話 観察する事の意義

セーリングの秘訣は観察する事だろうと思います。風を観察し、波を観察し、行く方角を決めて、セールを観察し、船体を観察する。セーリングをすれば誰でも自然にそうします。そうする事で得られるのは、観察力でしょう。観察力がついてくると、自然にいろんな事に気付くようになる。

観察力がついてくると、敏感になる。セールに入るわずかな裏風に気付き、舵を持つ手に伝わる変化も気付く。音にも敏感になるし、トラブルを未然に防ぐ事もある。それに、たった1本のビスの緩みさえも、たまたまか、どういうわけか気付く事がある。不思議なもんです。

洗練された感覚は、セーリングしていても、自然に微妙な変化にも気付く。セーリングというのは、ひょっとしたら、こうやって発展していくのかもしれません。セーリングに注意を向ければ、誰でも敏感になる。敏感になって、感じるところがありますから、セールをどうこうする。すると、またそこを感じます。そうやって、もっと敏感に洗練されていく。船底が少し汚れているだけでも気付くかもしれませんね。

そうしますと、今度は気付くという自分の感覚の進化が、面白いという事になると思います。違うヨットに乗せてもらっても、すぐに感じる。本当の面白さは、ここにあるかもしれません。観察し、洗練された感覚を得、違いが解る事。本当に面白いのは、ヨットを速く走らせる事ができると、自由自在に操れるとか、そういう事もあるでしょうが、同時に、自分が違いが解るという事ではないかと思います。それが、微妙なところまで感じる。人が気付かない、解らない事でも、自分には感じられる。そういう風に進化する自分に面白さを感じるのでは無いでしょうか?

もし、そうなら、観察する事は、大きな意味が出てきます。面白さの入り口みたいなもんでしょうか。違いの解る男になる。あらゆる部分で、理屈では無く、感じる事ができる。それはとっても面白いかと思います。でも、これは観察から始まって、永遠に進化発展していくものでしょう。そのうち、きっと、ぱっと見ただけで、そのヨットのおおまかな質さえ感じられるかもしれません。具体的に部分を見なくてもです。そういう進化した自分が面白いのではないでしょうか?

何も、そんな事まで考えて、ヨットやる必要は無いのですが、でも、ある時、ふっと何かの違いが感じられる事があります。そんな時はちょっと嬉しさを感じます。同じスピードが出ていたら、みんな同じ感覚かと言いますと、ヨットによって違う。同じサイズであっても違う。大きな差があれば、誰もが気付く。でも、どんどん小さな違いになっていきますと、誰もが解らない。でも、洗練された感覚はそういう事にも少しづつ発展しながら気付いていくと思います。それが面白さに変わる。

気付けば、またいろんな事をしたくなります。面白いからしたくなります。それは自然と速くなる結果をもたらすでしょうが、それは結果であって、求めるは変化。その変化にまた気付いていける自分の進化、セーリングの面白さは、そんなところにあるような気がします。結局、上手い人は、そういう事が人以上に気付ける人という事になりますが、上手くなった結果が面白いわけでは無く、進化する過程が面白い。という事で、誰もが、それぞれの位置から進化する事ができます。それを遊んで見てはいかがでしょうか?今日からでも、観察する事に専念してみてはいかがでしょうか?続けてさえ行けば、きっと何かが変わると思います。

それで、違いが感じられるようになると、自分の好みの感じというのも出てくる。人間、欲がありますから、自分の好きな感じ、好きなセーリングがもっと味わいたいと思う。そういうヨットを探すでしょうし、そのヨットがどんな感覚かも想像できる。それがさらに、さらに発展しますと、どんなヨットでも、そのヨットの感じをそのまま楽しむ事ができるのかもしれません。まあ、最高レベルのヨットマンでしょうが。違いが解れば、性能にこだわり、もっと進むと、性能の違いを楽しむ事ができるのかもしれませんね。どんなヨットであっても。まあ、そこまでは難しいですが。でも、自分の好きなセーリング感覚というのが少しづつ解るだけでも、実に面白くなるのではないかと思います。

それで、結局、そういうセーリングをするのには、デイセーラーがもってこいという結論になるわけです。もちろん、今あるクルージング艇でも良いです。それをじっくり乗られたら、そしてもし、次にデイセーラーに乗られたら、その違いは明確に解ると思います。観察する事は、違いの解る男になる事。違いの解る自分は、面白さをもたらす。と思うのですが。

ヨットに乗れるというだけで違う。ヨットに乗れる人と乗れない人とでは全く違う。それから先はヨットの違い、セーリングの違い、どんどん違いを解るようになる事が進化で、その進化が無いと、ヨットはなかなか遊べないのではないかと思います。楽しさはあっても、面白さにまでは発展しにくいのではないかと思うのですが。

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