第八十四話 タッキングという意図

旅においてはタッキングはあまりしません。ましてエンジンなら1回もしない。でも、セーリングをするなら、タッキングは頻繁に行われます。レースでは無いにしろ、タッキングもスムースにやれる方が良いわけです。何度もやって、タイミングを見つける。舵を切って、ジブに裏風が入る瞬間にシートを離し、新しいシート側を引く。その引き具合に舵を合わせる。うまくいけば、しんどい思いをしてウィンチをぐるぐる回す必要も無くなる。

セルフタッキングジブは非常にお奨めの装備なのですが、通常のヨット、メインが小さく、ジェノアが大きい場合は、ジェノアをセルフタッキングに変更しますと、セールエリアが小さすぎてしまう。まあ、強風時にはリーフしないでも良いかもしれませんが。

タッキング時にジェノアのクリューに結んだ2本のシートの結び目が大きくなって、それがステイに引っ掛かったりします。できるだけ結び目は小さく、もし、シート交換するなら、2本では無く、長い1本にして、半分に折って、その真ん中をクリューに通して、エンドの2本を通したシートの穴に入れるやり方なら、結び目も小さくなります。或いは、ステイに、プラスティックチューブのカバーをつけると引っ掛からなくなります。兎に角、セールが左に右に、スムースに流れるように。

最初に舵を大きく切ると、ジェノアが大きく外にでてしまいますので、今度はウィンチを何回も何回も回さないといけません。これもしんどいですから、できるだけウィンチ回転が少なくて済むように、どう舵を切るか?そのタイミングをとる。シートに引き具合にあわせたタイミング。これがうまくいけば、スムースに楽に短時間でできるようになる。それはレースで無くても、嬉しい事でしょう。タッキング直後はスピードが落ちるので、意図的にちょっと落として、スピードつけて、それからまた上る。そういう事も意図して行う。方向さえ変われば良いのから、スムースさ、角度という意図が出てきた方が面白くなります。意図が無ければ、方向転換したに過ぎない。意図があれば、その分面白さも増える。

上りもギリギリまで上るとか、そうでも無いとか、そこに意図を持つ事もできます。乗れば解るし、解れば意図が生まれる。よって、その意図に対して、どうやれるか、反応はどうなるか、という面白さが沸いてきます。タッキングという意図に対して、ただやるのと、どうやるのとは違ってくる。面白さは意図した数だけあります。もちろん、何も意図せずに、その状況を充分に味わってみる方法もありますが、それにプラス意図が加われば、もっと深くはいっていける。面白味が増える事になります。意図が無いと、そのうち飽きるかもしれませんね。意図と味わいと、また意図と、繰り返しで深く入っていけば、面白さに尽きる事は無いと思います。

セーリングゲームには、意図する事と、そのままを味わう事と、その両方でゲームはいかようにもなるのではないかと思います。タッキングという意図を持ち、さらに、いかにスムースにするかという意図を持ちます。風が弱い時、強い時、波、ブロー、いろんな状況の中で、意図を持ちます。
意図を持ったら最善を尽くし、その結果をそのまま味わう。進めば、また先が見えてくる。そうしますと、また新たなレベルの高い意図が生まれる。

人には、思考する力と感じる力がありますが、大抵は思考が優先されます。しかしながら、感じる力でもって完結するのではないかと思います。そして、セーリングの場合は意図がさらに幅を広げる事になるのかもしれません。でも、やっぱり、最後は感じる力が必要です。思考する力と感じる力のバランスを取りながら遊んでみるのが良いような気がします。ここにもバランスが現れます。セーリングもバランス、人もバランス、これらを自由自在に使い分けられれば、悠々と生きていけるのかな〜、と思います。しかしながら、思考にはたくさんのゴミみたいな物がくっついています。見栄や何らかの思惑や世間体やいろんな他人の価値観です。それらも、感じる事へのバランスを取りますと、何かスッキリした感じが湧いてくる。価値観もいろいろありますが、自分の価値観だと思っていたのが他人からの借用であったり、そういう事がスッキリ、シンプルになって、気楽な感じになれるような気がします。

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