第九十七話 レストアの時代

今の状況を見ますと、ヨットは多分50年、60年は持つでしょう。もっと持つかもしれません。日本にはそんなに古いFRPヨットがありませんから断言はできないにしても、今のヨットを見ますと、多分長く持ちます。

そうなってきますと、その艇がどれだけ手入れをされてきたかというのは、非常に大きな違いとして出てくるかと思います。いくら手入れしていても、20年やそこらで寿命が来るとしたら、大きな意味を持たなくなりますが、50年以上とかになりますと、全く違ってきます。

マンションは10年から15年ぐらいで、大規模な補修工事をやります。壁のひびとか、いろんな部分を補修工事して、次の10年、15年を迎えます。それで、マンションをいつもきれいに、長持ちさせる事ができます。ヨットも同じで、20年から30年の間には、各部の点検、ステイ類、バルブ、エンジン、セール各部を点検して、きちんと次の20年なりを迎えられるようにする。船体もキズ等を補修して、再塗装、錆びた金具類の交換、場合によってはエンジン交換もあるかもしれません。木部をニス塗装したり、クッションの張替えとか、いろんな事をしますが、見違えるようにきれになります。こういうレストアを施した艇は安心して次の20年なりを迎える事ができます。

これからヨットがどんどん古くなるに従って、こういうレストアが活きてきますし、レストアまで行かないにしても、日常に手入れ等の重要度が増してくる。そういう意味では、ヨット先進国は既に先を走っていますから、古いヨットがたくさんあり、そういう時代を経験してきていますから、中古艇の価格は手入れが大きく物を言います。それで、日本の同じ年式のヨットに比べて、価格が高い。日本もこれからは、そういう時代になっていくと思われます。

同じ30年物でも、手入れしてきたか、していないか、レストアしたか、していないか、そういう事によって価格は大きく差が開く。当然と言えば、当然の事ではあるのですが、これまで、ヨットがそんなに長く持つとは思ってこなかった我々には、当然ではなかったわけです。 

だいたい日本の評価は自動車に基づいていたように思います。自動車は10年も経てば二束三文、ビンテージ物でも無い限り、価格がつかない事もあります。それがヨットは10年とは言わないまでも、暗黙の了解で、20年あたりに設定されていたような気がします。そうしますと、20年に近づくようなヨットは価格が下がる。ところが、時が過ぎ、30年物が珍しくなくなった。それでも、ちゃんと走れるし、それどころか、全然問題が無い。こういうのを経験しますと、手入れ次第でどうにでもなると実感されます。これじゃ、もっともっと長く持てるじゃないか、と解ります。

但し、物によってはバルブが固着したり、エンジンの手入れが悪い為にサビだらけだったり、物によって随分と違いが出てきます。もっと長く持つのに、今の状態が良いのと、悪いのとでは、価格が同じであるのは理不尽であります。

とりあえず、ヨットは50年持つと考えて、評価されるべきではないか?ちゃんと手入れさえすれば、50年は持つ。その為には、どこをどう整備していけば良いのか?正しく評価されるべき時が来たとも言えます。そうすれば、オーナーも手入れしがいがあります。手入れすればする程に再販価格は高くなるのですから。そうしますと、日本のヨットの手入れ程度のレベルが上がってくるでしょう。どこのマリーナ行っても、古いヨットでも、きれいにされていると気持ちが良いです。

こういう意味で、日本のヨットマーケットもようやく成熟期に入っていく。そして欧米のように、評価をする免許を持った調査員(サベイヤー)が必要になるでしょうね。オーナーは高く売りたい、買うほうは安く買いたいのが人情です。それで、間を取り持つ、客観的な判断をする、どちらの立場でも無く、中立な立場で評価する人。そうなって、一人前の市場に育っていくのかもしれません。日本はこれからです。

後、10年から20年経ちますと、50年近いヨットが出てくるでしょう。そうしますと、この事がもっと助長されます。

良いヨットは、レストアを経て、息子に受け継がれるかもしれません。或いは、他人に譲られたとしても、同じ船名が受け継がれていくかもしれません。そして初代オーナーは誰、二代目は誰、三代目は誰となり、オーナーはおろそかにはできませんね。反面、名誉でもあります。維持できない人はこのヨットのオーナーにはなれませんとか、そういう事もあるかもしれません。

10年くらい前でしょうか、アメリカの高級セミカスタムヨットの造船所を訪れた時ですが、社長のマクファーレン氏曰く、100年経っても美しさを放つヨットを建造していると言った言葉が思い浮かびます。ヨットは50年持つ、しっかり造られたヨットは100年持つ。もっと持つかもしれません。
100年も乗るか、と言われるかもしれませんが、100年持つという事は、その価値を持つという意味でもあります。なる程、だから、同じサイズでも高いヨットが売れるのか。

長く持てば持つ程に、メインテナンスは欠かせない。という事は、レストアという意味が大きくクローズアップされていく。新艇時に、その造りにおいて価格差が出ます。そして、メインテナンスいかにによってもその後の価格に大きく影響を与える。使い捨て時代は終わった。

次々に新しいヨットも進水してほしいですし、また同時に、古いヨットもメインテナンスされてきれいに維持されていく。そういう具合に拡大していくのが理想ですね。そして、いつなのかはまだ解りませんが、そのヨットが寿命を全うしていく。そこまで大事にされる。日本はまだまだこれからですね。

次へ       目次へ