第九十九話 日本人スタイル

ヨット文化が欧米の物であるにせよ、我々日本人が日本人として、日本で使う以上、我々日本人のスタイルにならなければなりません。いろんな文化を輸入してきましたが、それらを上手に使いこなし、我々のスタイルに昇華してきました。欧米スタイルの家に住みながら、内部は和室があるし、また土足で入るような事はしません。和洋折衷と言われますね。その文化が根付く為には、日本スタイルになる事が望まれます。

ヨットをどのように日本スタイルにするか?過去何十年かの間に模索されてきたのかもしれません。その期間を過ぎ、徐々に解ってきた事実があります。ヨットに接する方法はいくつかあります。
レースを主体にする事、ロングの旅に出る事、ショートクルージングの旅、デイセーリング、別荘、そして使わない事です。

ロングの旅に出れる人は、自分のスタイルをきっちり持っている方でしょう。自分スタイルで、旅を楽しめる人かと思います。レースの方も同様です。そして、最も多い使い方としては、ショートクルージングとデイセーリングかと思います。このスタイルが日本人スタイルとして最も昇華される事によって、多くの使わない人達を、このスタイルに引き込む事ができるようになるのではないかと思います。

例外ももちろんありますが、多くの場合、キャビンがありながら、キャビンを有効活用しないという事です。ヨットがセーリングでありながら、同時にキャビンである時、人は大抵は、キャビンに惹かれます。その方が目に見えて解り易いし、想像もしやすいからです。一方、セーリングは目に見えず、従って、想像もしにくい。

キャビンの有効活用は、最も簡単な方法は週末に家族でマリーナに来て、ヨットに泊まるという事です。別荘として、家族で楽しむ事。これが基本的に楽しいものでなければなりません。ヨットをマリーナから出さなくても、マリーナに居て、そこでリゾート気分を味わえる事が必要かと思います。それが楽しいなら、たまにはヨットを出してセーリングをも楽しめます。キャビンは家族の為にあると言って良いと思います。クルー達の為にあるわけでは無く、家族の為。クルーと一緒に泊まる事があるかもしれませんが、やっぱり、キャビンは家族の為にある。

ところが、マリーナに居ても楽しく無い。そう感じられる方は多いかもしれません。オーナーはヨットがあるからまだましですが、家族はそうは行きません。それで、マリーナでの家族でのリゾートライフ、別荘的感覚は消滅していきます。だから、家族は来ないようになるのではないかと思います。
家族はヨットに興味があるわけでは無く、ヨットを含めたリゾート的気分が必要かと思います。でも、無いものは無い。よって、家族でのいわゆるファミリークルージングというものが消滅していきます。ヨットのキャビンだけが充実していても、それだけでは不十分なのではないでしょうか?マリーナを含めた全体としての魅力が必要かと思います。

家族が来なくなったキャビンを使いこなすのは容易ではありません。仲間が来て、宴会して、泊まるかもしれません。しかし、それでも、やはり別荘には家族が必要なのです。自分ひとりでは、これまた尚キャビンを使いこなせない。となりますと、どこかちょっとした旅を計画します。そこに家族を誘う。普段から慣れ親しんでいない家族は、旅にあこがれるかもしれません。でも、風が強かったり、雨が降ったり、波が高い事もあるでしょう。おまけに船酔いでもしようもんなら、最悪ですね。それで、簡単には帰れません。仮に、そういう事が無いにしろ、海の上を、たいして変化の無い海を何時間もかけてエンジンで走る。到着した場所を楽しむ事はできるにしても、そこまでの過程をどれだけ楽しめるか?我慢なんかしたく無いんです。過程が楽しく無いのなら、車で走った方が速いと思います。

旅に出れば、キャビンを使う事ができる。でも、道中はコクピットです。それで、夜、到着した先で、キャビンで食事、キャビンでの団欒、そして泊まる。やっとキャビンが活きてきました。しかし、そこにはいろんな障害を乗り越えての話です。そこまでする家族がどれだけ居るか、疑問でありますし、事実、家族がしょっちゅう来るヨットをあまり知りません。

キャビンを活かす最も必要な事は、家族で、マリーナで寝泊りをする。ヨットを出さなくても楽しめる。これが基本に必要かと思います。それがあるなら、ちょっと出ても楽しめるようになるでしょうし、もうちょっと遠出の旅も楽しめるようになる。キャビンライフはマリーナライフが基本かと思います。
その延長上にファミリークルージングがあると思います。

しかし、このマリーナライフが難しい場合、ファミリークルージングは無いし、そうなりますと、オーナーは仲間を誘うか、クルーを確保するか、或いはシングルで乗る事になります。こういう時、キャビンはあまり必要では無くなる。遠出すれば、泊まるかもしれませんが、それでも、今あるキャビンで無くても良いという感じはしないでしょうか?もっと簡易でも良いと感じないでしょうか?キャビンは走っている時は使わず、止まった時に活用されます。それも、長い時間キャビンに居る事が無い限り、大きなスペースである必要性もあまり無い。別荘なら大きい方が良い。しかし、クルーや仲間となら、キャンプ気分をかもし出す雰囲気も悪く無い。

欧米人はキャビンを家族で使う。だからこそ、大きなキャビンは有効に作用します。ファミリークルージングも活用される。でも、日本がそういう同じスタイルでない限り、大きなキャビンがあっても、あまり意味をなさない。自慢はできるかもしれませんが。という事で、日本でのマリーナライフが必需かと思います。でもそれはオーナが頑張ったとしても難しい面もあります。マリーナの雰囲気、施設、いろんな環境に左右されます。今のところ、日本のマリーナで、マリーナライフを満喫できるところはあまり無いと言えるような気がします。だから、土曜日の夕方、明日が日曜なのに、家路に急ぐ。これは、これで日本の今のスタイルですから、どうこう文句言っても何の意味がありません。

それで、私の考える日本スタイルとは、キャビンを二の次に据え、セーリングを中心に持ってくる事です。デイセーリングを気軽に味わう事です。それが基本になれば、旅もこの延長上にあります。
まずは、日常に気軽にセーリングを味わう事ができるようになる事。

その為に、いろんな条件を削除していきます。大きすぎるキャビンは出すのが億劫になるし、クルーが居る。いつでも、思いついた時に、クルーなしでも楽しめるのなら、これが最も条件が少ない。最も自由になれる。そこまでは行かなくても、最低二人では気軽には出せる。

欧米がキャビンライフが中心なら、日本スタイルはデイセーリング中心が良いのではないか?キャビンで過ごすのが主たる目的では無いので、寝泊りしなくても良い。このデイセーリングを気軽に楽しむ事が誰でもできるようになれば、その延長のショートの旅、ロングの旅、或いは、レースだって時には楽しめるようになるのではないでしょうか?そして、多分、推測ですが、デイセーリングを主に楽しめるようになったら、キャビンさえも楽しめるようになるのではないかと思います。この時、もはやマリーナ環境に左右される事無く、どんなマリーナであろうが、キャビンで過ごす事ができるようになるのではないかと思います。しかし、家族がここに至る事は、なかなか難しいと思われますね。

もう一度言いますが、キャビンは家族の為にある。家族が来ないから、キャビンが使われない。家族はマリーナでリゾート気分でも味わえないと面白く無い。よってファミリークルージングは無い。オーナーは家族は別と考え、自分の遊びをする。それには、デイセーリングが最適です。そうやってオーナーがデイセーリングを楽しめば、その先々にいろんな可能性がありますが、でも、やっぱり今はオーナー自身がセーリングを堪能して、楽しむ事が何より優先されるべきかと思います。
ひょっとしたら、欧米は最初から今の様では無く、こういう事を既に経てきたのかもしれません?
人が集まれば、マリーナも変わりますから。マリーナが変わるのを待っても、何も変わらない。

これがデイセーリングを薦める理由です。デイセーリングこそが、最も気軽に楽しめるスタイルかと思います。これが日本スタイル。欧米はキャビン、日本はデイセーリング。それさえ、根付けば、いろんな事が広がるかと思います。まだまだ時間は必要な様ですが。

デイセーリングを楽しみましょう。マリーナに着いて、簡単に準備ができて、さっと出れる。セーリングを堪能しましょう。2時間とか3時間とかで充分です。そうしたら、帰ってきた時に、コクピットが活きます。そこでちょっとゆったり。たいそうな物は準備しなくても、コンビニ弁当でも良いし、まあ、コーヒーぐらいは自分で新鮮なのを入れたいものです。でも、キャビンはその程度でも良い。何度も何度もデイセーリングに親しめば、いろんな事が解って来る。いろんな場面にもで合う。それを面白おかしく家族にも話しますね。お父さんはセーリングが楽しくて仕方無い。聞いた家族は、セーリングしてみたいと思うかもしれません。でも、キャビンはまだまだ。家族がしょっちゅう来るようになったら、キャビンが活きてきます。それまでは、まだまだ。家族が乗りたいと言い出した途端に、キャビンの事を考えます。でも、まだまだ、しょっちゅう来て、いつも一緒にデイセーリングを楽しむようになって、家族がそのうえで、ちょっと遠出もしたいね、と言い出してからです。そうしたら、家族で一緒に、どんなキャビンが良いか、話し合う事ができます。そうなるまで、機が熟すまでは、まだまだです。あせって、大きなキャビンにしても、家族は1回か2回来て、来なくなる可能性もあるのです。その場合、その後の運営はどうするか?

セーリングを遊んでいる間に、ひょっとしたら、オーナーはセーリングが面白くなって、もっとセーリングをと思うかもしれません。それはそれで良い。家族でも無く、仲間でも無く、まずはオーナー自身がヨットで楽しむ事、これが優先されるべきではないでしょうか?それがあって、その先の可能性は後からついてくる。デイセーリングを楽しめるようになる事で、いろんな物が活きる。キャビンで音楽を聴く。これだけしかしないのなら、なかなか難しいと思いますが、もし、デイセーリングを堪能しているという事実があれば、その気分が、キャビンで音楽を楽しませてくれるのではないかと思います。読書しかり、さらに、寝泊りにも発展するかもしれません。

要は、何か1点、楽しめる状況が必要です。中心となるべきスタイルが必要かと思います。それさえ、できれば、後は、自然に発展していくのではないかと思います。それが欧米ではキャビン、日本ではデイセーリングなのではないかと思います。

旅にも日本スタイルがあります。何も和室を作ろうという事ではありませんが、長い旅において、やっぱり風呂に入りたくなります。欧米人はシャワーで良いかもしれません。でも、日本人はあるなら、お風呂に浸かりたい。完全な欧米スタイルのヨットの中で、数日なら良いかもしれませんが、長い旅になります、やっぱり時にはお風呂につかって、畳の部屋で一杯やりたくなりますね。湯船につかる瞬間に、思わずあ〜っと声が出るのは欧米人には無いように聞きます。解るような気がしますね。これが日本人、ならば、日本スタイルで行きましょう。旅先で、お風呂に入って、旅館に泊まっても良いではないですか。ならば、またキャンビンはあまり重要では無くなりますね。

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