第二十四話 セーリングが好きな人

デイセーラーの話をしますと、セーリングが好きな人が乗るヨットとか言われます。この言葉には、ちょっと奇異な感じを持ちます。何故なら、セーリングが嫌いなヨット乗りが居るんでしょうか?と思うからです。むちゃくちゃ好きという程では無いにしても、まあ、そこそこには興味があって始めた方ばかりだろうとは思うのですが。

デイセーラーのセーリングはレースのセーリングというわけでも無く、だからと言って純クルージングでも無い。基本はクルージングなのですが、セーリングを重視したクルージング、セーリングそのものをもっと遊ぼうというセーリングです。純レーサーがF1グランプリなら、デイセーラーは一般人が乗るスポーツカーと言ったところでしょうか。走る事、そのものが面白いと感じるスポーツです。
レースでは無いので、自分のペースで、自分が面白いと感じる乗り方でセーリングを味わう。そういうセーリングが好きな人が乗るヨットです。

車の世界は成熟していますから、使い方によって、いろんな種類があります。普通の乗用車から、スポーツカー、4駆、ワンボックス、トラック、キャンピングカー、大きな車もあれば、軽もたくさん。
長い年月において、車がどんどん浸透してきたお陰で、それぞれが、どんな風に使うのかが明確に解る。よって、それに応じた車が作られる。

一方、ヨットの世界はまだまだ成熟したとは言いがたい。ですから、ひとつのヨットに多くを望む事になります。しかし、幸か不幸か、成熟した欧米の世界がありますから、そこからいろんなヨットが出現していきます。日本ではまだまだ受け入れられないかもしれませんが、世界には、それぞれのオーナーが自分流で遊ぶヨットがいろいろあります。日本には、まだまだ時間が必要なのかもしれません。

セーリングが好きだからと言って、必ずしも速い事が条件とは限りません。それぞれのヨットには、独自のセーリングの味わいというものがあり、その独特の味わいのあるセーリングを楽しもうという方々もおられます。セーリング好き、イコールスピードというわけでは無い。ですから、各人が自分流のセーリングを楽しむ事ができれば、それで良いかと思います。ヨットのサイズもそうです。
30フィートは最低必要と考える方もおられれば、25フィート、或いは40フィートという方もおられて当然でありますが、重要な事は、自分の心地良さではないでしょうか。

大きなヨットの大きなキャビンを覗けば、良いなと思う。しかし、自分がオーナーになって、運営していくにおいては、自分の心地良さがどこにあるのか、それがポイントになります。何しろ、1年や2年の事では無く、何十年にも渡る可能性があるわけですから。最も心地良いサイズで、最も心地良いコンセプトとその艤装で、自由自在に遊ぶ事ができるなら、それに越した事は無い。それには、もっともっと成熟していく必要があるのかもしれません。

欧米のデイセーラーのオーナーの方々は、その多くは、かつてはビッグボートのオーナーです。既に、大きなサイズから小さなサイズへの乗り換えが珍しくは無くなった。他人がどうであれ、自分の生活スタイルに応じる。独身の時、結婚して夫婦になる。子供ができて、成長して、親離れしていく。そして再び夫婦だけ。おまけに自分も年を取る。気持ちは若くても、体力は昔のままとはいかない。そういう変遷において、その時々に合うヨットは異なる。それに合わせて、変化していくのが、最も面白い乗り方でもある。前にも書きましたが、ディズニーのトップの方が、ハーバー20を購入されました。日本ではまだ有り得ないことかと思います。何も小さなヨットでセーリングを、と言うのでは無く、自分が面白いと思うヨット、スタイルに躊躇無くいけるという事です。それが成熟というのではないかと思います。

私はこういうのが好きだ、と言える方は幸福です。自分のスタイルが明確に解っている方は、躊躇無く、そこに行ける。多くの方々は、まだ自分のスタイルが見えていないかもしれません。すると、何を選んで、どう運営すれば良いかが解らない。これには時間が必要かと思います。でも、きっと、時間はかかるにしても、自分スタイルが見えてくる。それまでは、いろいろありますが、それもまた経験ですから、決して無駄では無いと思います。

オーバーナイトじゃないと乗った気がしない。という方もおられますが、一方では、2、3時間で堪能してくる方もおられます。もちろん、動かさないで、キャビンを堪能される方もおられるでしょう。それはそれでも良い。自分が楽しいと感じられるスタイルさえ見出せれば、それで良い。仕事を引退して後、何をするか?たくさんの方々が、仕事したいと望んでおられるようです。何かをしたいのです。それまでに、自分流というのが見つかれば、引退後は楽しい人生になるでしょう。時間さえあれば、クルーさえ居れば、そうでは無く、何をしたいかが明確になるなら、時間を何とかして作るし、その気になればクルーだって見つけられると思います。最初に自分の意識ありきではないでしょうか?

時間が無いから、クルーが居無いからこうするでは、何か満足できないものが残る。何をしたいのか、どんな使い方をしたいのか、それを最初に明確にできれば、そこに向かって動き出す。レースをしたいのか、旅をしたいのか、セーリングをしたいのか、キャビンライフを楽しみたいのか?それぞれに、相応しいヨットがあります。

次へ       目次へ