第四十七話 中古艇考

中古ヨットを検討する場合、一般的には価格が安くなる事、それに装備がいろいろついている等が有利な面として言われます。しかし、ちょっと考えてみますと、違う面も見えます。価格が安いのは、これはその通りですが、装備面に関しては喜んでばかりはいられないと思う次第です。

車は10年も経てば、二束三文の価値しか残らない。常識にもなっています。車の性能が良い、壊れないと言っても、10年も乗れば、そこかしこに故障は出てきます。点検や車検や、整備していてもそうです。しかも、日本中舗装されている道路を走るわけで、環境は非常に良いと言えます。それでも、10年経てば二束三文で、故障も出る。

それに比べて、海という環境の悪さ、風や波にもまれて、いつもプレッシャーに耐えていくヨット、それでも10年なんかはまだ序の口で、多分、50年か60年ぐらいは持つでしょう。実際、FRPヨットが建造されるようになって、そのくらいしか経っていません。その先はまだ解らない。悪環境においても、強く耐えているのがヨットであります。

船体は50年持つとしても、持たないのが内部に設置された機器類です。中古でいろいろついてるとは言っても、現状では動いていても、いつ壊れるかも解らない。船齢10年のヨット、それに新艇当時に設置されたGPS,計器類、発電機とかエアコンとか、いろいろあるから良いと考えても、それらがいつ壊れるかもしれません。セールもくたびれているかもしれない。逆に、それらが設置されていないヨットなら、ここで最新の装備を設置すれば、船体は持つので、この先また10年ぐらいはそのままで行けるとも考えられる。

例えば、船齢は15年経っているとしても、2,3年前に計器類の交換とか、セール交換とか、なされているヨットだとしたら、はたしてどっちが良いのか?もちろん、船そのもののメインテナンス、エンジンのメインテナンスはきちんとされておかなければなりませんが。寿命が20年程度だとしたら、20年で二束三文になるとしたら、それゃあ船齢10年の方が良いに決ってます。でも、50年持つとしたら、船齢15年でも、きちんと機器類の交換等がなされているとしたら、そっちの方が良いのでは?と思うしだいです。機器類も日々進化していますから、10年前のGPSより今のGPSの方が良いだろうし、計器類もしかり。

エンジンは整備さえちゃんとしていけば、相当長い事持つ。5,000時間程度使って、オーバーホールしてまた使う。5,000時間と言えば、相当長いし、こんなに長く使ったエンジンをまだ見た事が無いぐらいです。

そして、結論としては、ヨットはあまり頻繁なモデルチェンジは無いにしても、それでも、場合によっては、古いデザイン、新しいデザインと様相はかなり違います。決して、新しい方が必ずしも良いとは思いませんが、それは使う用途によると思います。それで、そのデザインの好き嫌いは別として、中古を検討する場合は、当然ながら、整備状況の善し悪しに大きく左右されます。それを見る事と、装備された機器類も、10年以上経っていれば、あまりあてにしない方が良いのではないかと思います。同じ船齢なら、そういう機器類の交換がなされているかどうかの方が重要、セールもしかり。

そこで、売る側の方は、いつ、どんな整備をしてきたかを、きちんと記録しておく事をお勧めします。逆に、購入される方は、できるだけそういう情報を得た方が良い。でも、一般的には、殆ど記録されていません。アメリカの中古等を見ますと、実に詳しく記載されている事が多い。何年に何を交換したとか、セールはいつ作ったとかです。それらが重要な情報です。船体は長く持つので、それらが壊れる方がお金がかかってしまう。

という事でただ機器類がついてるだけでは安心できません。むしろ、10年以上の船齢で、機器類も10年以上ならあてにしない方が良い。それがもし長くその後も使えたなら、ラッキーと思った方が良いかもしれません。優秀な日本製家電にしたって、10年も使えば、そこかしこに故障が出てもおかしく無い。まして、ヨットの機器類は、滅多には使われ無いし、使われる環境も悪い。そういう意味では、優秀だと思いますね。これは多分、ヨットが10年使っても、相当使ってきたな、という感じを持たないせいではないでしょうか?10年程度では、あまり古く感じ無い。でも、一般の車や家電の場合は、10年使って、壊れたら、仕方ないと思う。ヨットは変化のスピードが、一般とは違い時間の流れが相当遅いのでしょう。多分、2倍から3倍ぐらいは遅い。感覚的にです。

マンションは10年を目安に、大規模な補修工事をします。ヨットはやりませんね。それでも、寿命は長い。そういう目で見ますと、ヨットという乗り物は、かなり優秀なのではないでしょうか?もし、ヨットにも10年おきに大規模補修をやったとしたら、これは相当長持ちになるのではないでしょうか?

アメリカ市場において、中古は高いという事実があります。しかし、一般メインテナンスは当然ながら、機器類の交換やセールの交換等々、実に良くなされています。高くて当たり前とも言える。これは船体の寿命に対する、機器類の寿命の関係から来ると思います。もし、機器類も50年持つとしたら、きちんと整備するだけで十分なはず。そうでは無いと解っているからこそ、何年にポンプを交換したとか、何年にあれした、これしたと記載される。

寿命という意味では、新しい方がどうだろうかという疑いもあります。過当競争にさらされながら、船体の作りは昔とは違ってきました。もちろん、今でも相当なる手間をかけて建造されているヨットもありますが、でも、一般的にはそうでも無い。そのおかげで、価格は相応に抑えられています。それに、誰もが、外洋に行くわけでは無い事も解ってきたし、あまり無理して使われる事も少ない。そういう意味では十分とも言える。ただ、寿命となると解りません。無理しない分、やはり50年は持つのかもしれませんが。

さて、中古艇、やはり機器類の交換も含めたメインテナンス次第という事になります。という事はそろそろ、日本も船齢だけで価格を決める習慣もちょっと見直した方が良いような気もします。この習慣はヨットの寿命が短いならば解りますが、我々が思っている以上に長く使えるものだからです。長ければ長い程、メインテナンス次第という事が重要になってきます。もし、寿命が短いのであれば、いくらメインテナンスをしても限界がすぐに見えてくる。寿命が長いからこそ、メインテナンスが生きてくる。

しかし、セールの寿命は難しい。本来の走りをしなくなったのを境にするか、或いは、クルージングで、セーリングをさほど重要視しないかにもよりますね。20年も30年も使われているセールもある。おまけにどの程度使ってきたかもオーナー次第にもよりますしね。でも、畳みと何とかとセールは新しい方が良い。

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