第七十三話 忙しいならヨットが良い

忙しいからボート、いつか引退して暇ができたらヨットにしてみたい?そんな声が時々聞こえてきます。でも、実はこれは気分の問題。ヨットはのんびりしてるから?でも、暇が無い人がボートでどこに行くんでしょう?ヨットより速いとは言え、行動範囲は限られる。どこかに寄るにしても、スポットは限定されます。そこに何度も言っても仕方無い。

そこでヨットはと言いますと、近場のセーリングで、セーリングを堪能できる。2,3時間あれば、セーリングを堪能できる。だからこそ、忙しい人にはヨットの方が楽しめるのです。それもボートと同じような使い方なら、そうもいきません。どこかに寄ってなら、行ける範囲はもっと少ない。でも、セーリングをしようと思うなら、どこにも行く必要がありません。そこらで十分遊べる。それどころか堪能できます。

ボートで走って、その走る航程を楽しめる人なら良い。でも、そうはいないはずです。クルージングという旅になってしまう。クルージングの旅なら、ヨットには相当な時間も必要ですが、セーリングを堪能するに、そんなに時間を要しない。だから、忙しい方にはセーリングをお奨めいたします。

ある方は土曜の仕事が終わって、3時か4時頃から、ちょっと出してくる方がおられます。それでも、十分楽しめる。それはセーリングが目的だからです。マリーナを出たらセールを上げる。すぐにセーリングが始められる。1,2時間走って、その味わいを楽しめる。それで帰っても、今日のセーリングはこうだったと味わえる。それがセーリングの良さです。

その為には、マリーナに着いて、出港準備が簡単にできる必要がある。エンジンかけて、5分から10分以内に出港できる。簡単にセールが上げられて、すぐにセーリングの世界に突入できる。どんどん簡単にして、シンプルにして、セーリングの時間を増やす。それにはシングルが良い。誰かを待つ時間も不要になる。

シングルでセーリングするなら、ただ走るというより、いかに良いセーリングをするかを考えた方が面白くなる。セールを上げてさえいればヨットは自然に走ってしまう。しかし、いかにを考えたら、シート操作だけでは十分では無い。トラベラーの位置、バングの使い方、バックステーの使い方、そういう事を知って、より良いセーリングをするにはどうしたら良いか?どうせセーリングするなら、より良いを考える。シングルでどうせ暇なら、そういう事に集中した方が、短時間でも充実した、中身の濃いセーリングができる。面倒くさい?

最初はそうかもしれません。でも、それに慣れてきますと、その面倒くさいが面白さになります。こうしたら、よりスムースに走るようになった。スピードメーターで数値を確認するからでは無く、自分の体感でスムースさが感じられる。それが面白さになります。いかに、ヒールを抑えて、バランスをとりながら最高のスピードを得られるか?そんなこんなを考えながら、数値では無く、自分の体でその変化が感じられる時、これほど面白い世界は無いときっと思われるでしょう。数値はあくまで参考です。目的は変化を感じる事です。それがセーリングの面白さ。

トラベラーを引き上げたら、ちょっと上り角度が良くなった。バックステーを引いて、セールをフラットにすると、スムースになった。ヨットにはいくつかの艤装があり、それらが相互作用で、いろいろな変化があります。スピードだけではありません。セールをこういう形状にするにはどうしたら良いか?と考えた時、こうして、ああして、ひとつだけの操作では無くなる。そんな複雑さが、知れば知る程に出てきます。それが解る事が面白さ。そしてそれをひとつづつ操作しながら、変化を感じ取れるようになる事がもっと大きな面白さになります。

セーリングの面白さは、この変化を感じ取れるようになる事。知識を増やし、技術を向上させ、それらに伴う変化を最後は感じ取る。感性も向上していきます。セーリングの面白さとは、変化を感じ取れるところにある。いくら物理的に速く走れても、数値だけでは面白さは物足りない。たとえ、スピード計が無いにしても、自分の感じとして感じとれる事が重要です。それは、ボートのエンジンスロットルを上げて速くなるのとはわけが違う。次元が違う。ヨットの変化は、そこを感じ取れる事こそが究極のヨット遊び。感性の遊びなのであります。

そこを遊ぶに、時間はそんなに必要は無い。1日に2,3時間でも十分なのです。1日に何時間も乗って、たまにしか乗らないよりも、1日わずかでも、しょっちゅう乗れるようになる。小刻みなセーリングはその日によってコンディションが異なるので、変化も多様になります。これがまた面白さにもなる。

自然条件が異なれば、走り方も異なる。そうなると変化も異なる。そうなりますと、変化は無限にあるわけです。自然と遊ぶのは、そこに変化があるから。同じ海域でも、異なるからこそ、近場のセーリングでも面白い。そんなセーリングは忙しい人にもピッタリなのです。ボートに乗って、どんな変化があるでしょうか?ボートは変化を楽しむ乗り物では無いような気がします。否、やっぱり変化はほしいから、どこかに行く事になる。これは走る事そのものを遊ぶのとは違う。鏡のような海面を、すっ飛ばして走るのは気分は最高?でも、これが1時間、2時間と続くと、そうでもなくなる?ですからどこかに行きたくなる。

でも、ヨットは違う。航程の変化、時には微妙な変化になる事もありますが、航程の変化を楽しむのがヨット、セーリングでありますから、いつでも、どこでも楽しめます。ただ、風が無い時は仕方無い、時化たら仕方無い。これも自然の変化ですから、文句言わずに、そのまま受け入れましょう。その代わり、そんな時もあるからこそ、次のセーリングは格別のフィーリングが味わえるかもしれません。

どうぞ、忙しい方も、デイセーリングを考えてみませんか?ヨットだからこそできる事です。そして、デイセーリングんは、デイセーラーが最も面白い。何しろ、そういう方々の為に設計されているのですから。

次へ       目次へ