第七十九話 FRP

今日の船体を作るうえで、最も使われるFRP、モールド(型)にガラス繊維を何層も積層して、乾燥すればカチカチになります。通常のプラスティックと違うのは、繊維がある為に強度がある。それにモールドを使う事によって、再現性がありますから、量産するのに向いてます。

量産とはいえ、車と違って、ヨットは職人の手間がかかる。デザイナーはヨットを設計しますが、作り方はその造船所による。同じデザインのヨットであっても、造船所によって出来上がってくる質は異なる事になります。確かに、昨今のカーボンを使うとか、エポキシ樹脂を使うとか、そういう素材は良いには違いないが、それをどう使うか、どのように積層していくかとい職人の腕が重要。

繊維を敷いて、樹脂を塗布、繊維に対して、樹脂の量が多すぎても、少なすぎてもいけません。また、層と層の間に空気が残ってもいけません。平坦な面ならば、まだ作業はやり易いでしょうが、カーブ、複雑な形状の場合はなかなか難しい。やはり職人の世界でしょうね。ですから、高級素材は良いには違いないが、その前の職人の腕次第と言えるかもしれません。

良く造られたFRPは、長く持つ。1950年代から造船にFRPが使われ始め、それがどのくらい持つかは、実際の経年を待たなければなりませんが、少なくとも、60年ぐらい経つわけで、多分、良いつくりなら100年持つかもしれません。

船体が傷ついても、FRPはどうにでも修理ができる。たとえ、大きな穴が開いても、見事に修理ができる。後は、損害の大きさによっては、修理費用が高くついて、新しく造船するのとどっちが良いかという問題くらいでしょう。FRPは素晴らしい発明であります。

FRPの問題点は、積層間に樹脂が浸透していなかったりしますと、本来の強度が出ない。これなどは完成品を見ても解りません。信頼するしか無い。職人といえども、人間ですから、完璧は有り得ない。よって考えられたのが、SCRIMP工法。特許技術です。モールドにガラス繊維を敷いて、いろんなパイプを配し、そこに樹脂を流し込む。その上からカバーをして、ポンプで空気を抜き、大気圧で圧縮、余分な樹脂が排出用のパイプから排出されます。これはガラス繊維に対する樹脂の量を的確にコントロールできる技術だそうです。これによって、くまなく樹脂が浸透し強度は増すし、しかも、バラつきが無い。

同じFRPと言っても、スプレー式もあれば、職人によるハンドレイアップもあるし、このようなSCRIMP工法もある。それらは、同じ厚みでも強度は違う。強度が違えば、寿命も違う。いろいろです。
強度が違えば、乗り心地にも影響しますし、スピードにも影響します。フィーリングを大事にするセーリングとしては、強度は重要な要素であります。

ヨットには船体がねじれるという力も加わる。船体の剛性も重要になります。だからと言って、やたらと厚みを増すのでは知恵が無い。重くなるだけです。そこで、サンドイッチ構造にして、外側と内側のFRPの間にバルサ材とか、エアレックス(化学素材)をサンドイッチにして厚みを出す。これら各層を樹脂でバッチリ固めてしまえば、軽くて強い剛性が出る。ヨットの寿命は船体の寿命。船体の寿命は造りの質にある。その造りの質は、やはり人間の手間がかかっている。そして、それらは、造船所の考え方に頼る事になります。

造船所はヨットのデザインと、自社の作り出すヨットのコンセプトを打ち出す。そこに各社の違いが生まれる。それらは質を反映し、性能を反映し、価格を反映します。それらが市場で認められない時は消えざるを得無い。認められているという事は、価格と質と性能がバランスされた事を意味します。質は見る事ができないが、その造船所が打ち出すコンセプトは知る事ができます。我々が知るべきはこれかと思います。

外洋ヨットを造る造船所、沿岸用を造る造船所、レーサーを造る造船所。デイセーラーを造る造船所は、例えば、内装はシンプルだし、価格は安いかと思いきや、結構高価であります。何故か?
セーリングを中心に遊ぶとなると、オーナーもフィーリングや性能にこだわる事になります。それは船体の設計もさる事ながら、船体が重すぎたり、強度がなかったりしますとと感じられる世界です。それではセーリングが台無しになる。セーリングが駄目なデイセーラーは誰も見向きもしなくなる。よって、船体構造にはこだわる。これは内装がどうこうよりも手間がかかる事、それによって価格もそうなり、市場も認めた。ですからデイセーラーのセーリングは愉快なのであります。一味、二味違うかと思います。

ヨットが帆走を主たるテーマにした時、そこには最も手間を要する。見かけだけでは無く、強度も剛性も必要だし、いかに最高のフィーリングを造りだすかにかかっている。そういう事からしますと、内装は強度的にはあまり考えないでも良いわけです。もちろん、内装をも船体に積層して、内装自体も強度に寄与するという作り方をしている造船所もありますが。走りを意識すると、性能が要る。
よって、レーサーなどはとっても高価、内装なんか無いでも、非常に高いのは頷ける。

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