第九話 乗り物

自転車、バイクや車、最も身近なところでは、こういう乗り物を思い浮かべます。これらの乗り物にしても、乗れるという段階においては、そう難しい事は無い。ヨットにおいても同じで、乗れるという段階では難しくはありません。むしろ、ヨットの方が簡単でしょう。考えてみれば、決った道路に沿って、他の車や人も通るし、子供が飛び出してくるかもしれません。その点、ヨットは広い海、混雑は無いし、道路も無い。車の方がよっぽど難しいと言えます。ただ、操作の仕方が違うので、難しいという印象を持つだけでしょう。

車にしても、動かすだけなら、そう難しくは無いのですが、一部の方、車を動かす以上の事を求めます。そうなってきますと、車の操縦もかなり難しい事になります。自転車だって、バイクだって同じで、目的は速く走る事。カーブがあっても、いかに速く走りぬけるかを考えますと、そこに難しさが出てくる。結局、何だって、動かす程度なら難しくは無いのですが、それをもっと速くとか考えますと、難しくなる。

自転車や車では、誰よりも速く走らせるという考え無しでも、十分に動かせる程度でも、用事を済ませる事ができます。つまり、自転車やバイク、車というのは、動かせる程度でも十分役に立つわけです。でも、ヨットはどうでしょうか?動かせる程度でも最初は楽しむ事はできます。でも、何かの用事をしようという事は無いわけで、そうしますと、自分が楽しめる時はそれで良いのですが、それ以外の目的が無い。やがて、そのレベルでは楽しむにも刺激が少なくなります。という事は、長く楽しむ為には、もっとレベルを上げざるを得ないのかもしれません。

レベルを上げるというのは、スムースに無駄無く、速く走るという事になります。競争でも無いのに速く走る。速いというのは、それだけ効率が良い事であり、無駄が無い事であり、それらは必然的に速くなる。

つまり、自転車、バイク、車などは、用事を済ませる為に使う使い方と、楽しむ為に使う使い方があり、用事を済ませるだけなら動かせれば良いわけですが、楽しむ為となりますと、動かせるだけでは無く、速くという事が考えられます。そこで、ヨットはと言いますと、用事を済ませるという事が無いわけで、そうなりますと、楽しむ為だけ、ならば、速く走らせようと考えなければ、面白く無くなる。

もちろん、ヨットにも他の使い方はあります。でもセーリングを楽しむというのならば、そういう事になるのだろうし、セールで走るという事はセーリングを楽しむ事ですし、例え、レースをしない方でも、速く走らせる方法を知っておいた方が、面白さのバリエーションは広がりますし、まして、セーリングはヨットの基本中の基本でもありますし。

他のヨットより速くと考える必要は無い。しかし、自分のヨットを知って、そのできる範囲での、今の経験と知識を総動員して、より速く走らせるという意識は、面白さの増加にもなると思います。そのできるといううえにおいて、状況や気分で、ゆっくり走る事もあるでしょう。でも、できないでゆっくりとできるのにゆっくりでは異なる。より速く走らせようとするのが、ヨットの面白さの基本にあって、そのうえで、臨機応変に、操作を楽しむ。

ですから、基本はより速く。これを目指す事ではないかと思います。典型的なクルージングヨットにおいてもです。そこを楽しむ事が日常にあって、それを楽しみ、時にいろんなバリエーションも創造する事ができる。目指すは速く。そして、誰でも、快走しますと実に気分が良い。

ヨットの楽しみはもちろん、スピードだけではありません。滑らかな動きや、タック、ジャイブがうまくなる。そういう事も快走に繋がります。そして、頭脳を使った知的ゲームを加えて、さらに面白さを増加させる。現代のプレジャーヨットのセーリングの基本はこれではないかと思います。もちろん、ヨットのは旅の楽しみもありますが、旅はまたセーリングとは異なるものかと思います。意識はセールでは無く、外界にあるわけですから。別な遊びです。

それで、クルージングも、旅とセーリングに分けたわけです。どっちかを選ぶというより、今はどっちをするかという事で使い分けるようになると思います。そして、どっちの比重が大きいかによって、ヨット本体の選択も違ってくる事になります。

それで、うまくなりたいと思うわけです。ですが、うまくなればなる程に、挑戦する事は高度になります。複雑にもなります。下手な人は幸いです。これからどんどんうまくなれる。目に見えてそれが実感できるようになるでしょう。うまい人は大変です。より高度な事に挑戦するようになります。でも、それを感じ取れる感性もそこまで育ったはずですから、挑戦に見合う高度はフィーリングを味わえる。どっちにしても、うまくなろうとするチャレンジ精神が、面白さを創造する。ヨットは面白いか否か、それだけですね。でも、そこが最も大事な処かと思いますね。

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