第三十六話 自由自在感

カナダ、バンクーバーで行われていますオリンピック、スキー、スケート、スノーボード等々を見るにつけ、金銀銅の順位はつくものの、当たり前ですが、あの自由自在に操る姿は羨ましい。トップを取るのは大変な事で、相当な練習が必要になりますが、そこまでは無くても、あの自由自在に操る感じを、少しでも味わえるようになたら、どんなにか楽しいだろうか、とあこがれます。

ブローに入って、瞬時にセールを対応させる、ブローを抜けたら瞬時に対応、上っても下っても、タックしてもジャイブして、ユーターンしたって、どんな時にも、無意識のうちにさっと体が動く。ヨットとの一体感があって、ヨットが自分の意思で、手足のように自由自在に動く。これがデイセーラーの究極のセーリングです。

舵を握り、後は感覚的にシートを出したり、引いたり、トラックを操作したり。バングやバックステーにカニンガム、これらを理屈では無く、感覚的に操船できたら何と面白い事でしょうか?何も100%適切な調整である必要性は無いわけで、できるだけでも良い。ただ、自由自在感を味わいたい。

その為には最初は理屈から入り、何度も乗って、観察と調整とその感覚を体で覚える事になるのでしょうが、何もプロを目指すわけでも無く、毎シーズン、そこそこ乗っていれば、そしてセーリングに集中していれば、そのうちそういう自由自在感を少しづつでも得られるようになっていくのではないかと思います。

車だって、毎日乗りますと、あっと言う間に自由自在になります。何も考えなくても、アクセルやブレーキを使えるし、ハンドル捌きだって自動的です。昨今はギヤシフトはオートマチックになっていますが、マニュアル時代だって、自由自在でした。その車は決められた道路を走り、その道路には、他の車も行き交い、自転車も、人も通る。そんな複雑な中でも自由自在にやっているわけです。

それに比べたら、海には道路も無い、他のボートは居るけど、たくさんは無い、人も通ってないし、突然飛び出してくる子供も居無い。反面、車よりも操作する箇所は多い。それだけに、それらを自由に使いこなして、縦横無尽に走り回る事ができると、それは快感になる。プロレベルにならなくても、ある程度うまくなれば、そういう感覚が少しづつ湧いてくるかと思います。デイセーリングの醍醐味はそこにある。

そういうセーリングにいち早く近づく為に最も近いのがデイセーラーだと思っています。操作が簡単だから何もしないのでは無く、簡単だからこそ、もっと高いレベルにまで、早く到達できる。より一体感を生み出しやすいし、そうすると、無意識に操船する割合が増えてきます。すると、感覚はもっと微妙な違いにまで及ぶ事ができるようになり、もっとレベルアップする事ができる。すると、もっと一体感が生まれ、自由自在度が増して行く。そういうのにあこがれるわけです。

スケートするも、リンクをぐるぐる回るだけでは無く、人ごみの中を、スイスイとすり抜けて行く人が居ます。バックで滑っても滑らかだし、余裕があるし、クルリと回転して見せたり。何も2回転、3回転をしようという話では無く、そんな高等技術はできなくても、当たり前の事を、自由自在感をもって味わいたいわけです。セーリングでそれを味わいたいわけです。

うまくなりますと、微妙な違いが感じられるようになる。それで、セールをちょいと動かす。その違いが解るか解らないかは、面白さに影響します。それを解るようになりたいわけです。どこかに行きたいわけではありません。できるだけ多くの違いを感じ取り、できるだけより良いセーリングができるようになり、できるだけより良いフィーリングを得たい。それが自由自在感。それがデイセーリングの面白さ、デイセーラーはそんなセーリングを提供できます。

取り合えず動かせるようになるのは簡単にできます。それから、慣れていけば自由自在感が味わえるようになる。そしてもっとうまくなれば、微妙な違いさえ解るようになる。そんなセーリングを目指しても面白いと思いますね。

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