第四十七話 普通である事

ヨットは日本においては根付いていないだけに特殊な感じがします。確かに、セーリングというのは、特殊な技能が要求されますが、しかし、根底には、単純にその世界を味わい、楽しみたいという、他の世界と何ら変わる事はありません。普通に楽しむだけです。それを特別扱いしますと、楽しむ事ができなくなるかもしれません。

ただ、セーリングに出る。それだけで陸上とは全く違う世界、海に囲まれた島国であるだけに、そこはもっと気軽さが必要かと思います。何も、特別な事をしなくてはならないわけでも無く、どこか特別な所に行かなければならないわけでは無く、その目の前の海に出るだけで、別な世界を味わえる。それを特別な行為に祭り上げて構えるか、或いは、普通の事として気軽に遊ぶか、そこの差は大きなものかと思います。

目の前で、陸からそう遠く無くても、セーリングして遊ぶ。セーリング独特の味わいを得る。それだけでも、十分に堪能できるものかと思います。いかに普通で居られるかは、いかに遊べるかに影響を与えるのではないかと思います。問題はヨットやフィールドでは無く、乗る側の意識の問題も大きいと思います。

海外の状況を見ますと、実に皆さん気軽に遊んでいます。小さなヨットからスーパーヨットまで、自分に応じたヨットで、自分のスタイルで、今楽しめる事を、今楽しんでいる。ある方は、動かない大きなヨットを尻目に、奥さんと二人で25フィートのヨットで、サンセットセーリングに出かける。ワインのボトルを一本持って。それが自分のスタイルだと言われる。どんな乗り方をしようが、どんな楽しみ方だろうが、自分と、家族と、仲間と、楽しめるなら、それが一番良い。

日本はもっと小型ヨットがどんどん増えた方が良い。自転車感覚になれるぐらいの小さなヨットが、たくさんある方が良い。若い夫婦が、気軽にセーリングを遊べるようになれば良いなと思います。やがて、彼らは大きなヨットに乗り換える人も出てくるでしょう。そして、また若い世代が、入ってくる。小型ヨットが無い世界は、世界が途切れる可能性があります。日本のヨット界も高齢化が進み、次の世代が非常に少ない。これは由々しき問題です。今はまだ良い、ですが10年後はどうなっているんでしょうか?

世界には小型ヨットがたくさんあります。年間の販売艇数は、圧倒的に小型ヨットの方が多い。日本は小型が少ない。先日、ブルーウォーター21という古いヨットですが、きちんと整備されているヨット、オーナー引退の為、無料でという話が出ました。でも、誰も引き取り手が無かった。それで、処分されたわけです。無料でも引き取り手が居無い。

解らないでもありません。ヨットはただでも、係留料金が高い。そこが問題でもあります。例えば、
25フィート以下のヨットとかには、特別割安料金を設定して、若い世代を育てるとかいう事も、将来の為には考える必要があるかもしれません。

何とか、若い世代が入りやすい状況を作る必要がある。彼らが、自転車感覚で、ちょいとセーリングを楽しむ。そういう世代が将来のマリーン業界を背負う事にもなります。業界全体で取り組む必要があるかもしれません。

誰かに聞くと、船外機は駄目、やめた方が良い、近い将来買い替えたくなるから、もうちょっと大きなヨットが良い、トイレが無いのはいかん、云々。どうも小型艇にはマイナス意見が多い。でも、考えてみたら、目の前の海で、ちょいと1時間、2時間、スイスイと遊んでくるのに、そんなの無くても良い。簡単に出せて、簡単に遊んでくる。その気軽さがある。それが良い。

我々のそういう意識が変わらないといけないのかもしれません。大型も良いし、小型も良い。キャンピングカーも良いし、自転車も良い。楽しみ方が違うだけです。

 左の写真は21フィート。こんなのも気軽で
 良い。但し、問題は輸送費や手間などは同じ
 だけかかってしまう。
 日本国内で造って、数多く売れるようになると
 良いんでしょうが。
 難しい問題かもしれません。でも、何とかしな
 ければならない事かもしれません。





  ハーバー20。こんなにたくさん並んでます。
  こんな状況が、日本にも望まれます。

  乗ればセーリングを楽しめる。いつかは、
  25フィート、30フィートと思うかもしれませ
  んが、今はこれで楽しむ。

  キャビンが無いと、トイレが無いと、船外機
  よりインボード、確かにそうかもしれません。
  しかし、これはこれで気軽さがある。そういう
  見方も必要かもしれません。

  既存のオーナー、業者含めて、全体の意識
  改革が必要なのかもしれません。でも、誰か
  が声高に叫んで変わるわけでもありません。
  誰かが、それで気軽に楽しんで、それに同調
  する人が出てきて、それで徐々に変わる。
  10年後、20年後、どうなっているんでしょう
  か?たくさんを求めず、最低限で行けるなら
  それがきっと気軽さをもたらすのかもしれま
  せん。

  

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