第七話 進化する程に 

物が商品であり、ビジネスであるなら、製造者は売り上げを拡大するのが使命ですから、新しく進化させる事になります。すると、何を進化させるかになりますが、例えば、いろんな用途がある中で、この部分を強調していく、もっと便利に使えるようにするとかになると思います。ある部分強調するという事は、それ以外を捨てるという意味にもなります。つまり、その特定の用途において、もっと進化し、便利であったり、機能的であったりする。そして、この事は、その用途に専門性が生まれる事にもなる。

進化するという事は、より熟し、専門性を帯びる。かつては、ひとつの種類であらゆる用途をこなしていたわけですが、それが分化し、さらに進むともっと専門性を帯びる事になり、選択のバリエーションが増えると同時に、ひとつでオールマイティーという事が薄れて行きます。自動車しかり、自転車しかり、ヨットも同じですね。

ヨットは車ほどには細分化はされていません。という事は社会における浸透性、成熟の仕方が、車ほどには無い。しかし、昔のヨットからすれば、確かに分化されてきています。浸透すれば、もっとを望み、もっとは同じ物では拡大できませんから、どこかを強調する事になる。

最も一般的使い方であるクルージングという用途が強調され、キャビン拡大競争が行われてきました。この事は、そのクルージングというジャンルにおける専門性の強調でもあります。一方で、この強調はセーリング離れを意味する。という事で、他方からはデイセーラーが出現します。これがレーサーの強調ではなかった事には意味がある。一般用途の中からの分化で、レーサーとは違う使い方でのセーリングの強調、一般に使われる中でのセーリングの強調という意味があります。つまり、現代の沿岸クルージング艇とデイセーラーの出所はひとつではないかと思います。クルージングを強調して進化してきたか、セーリングを強調して進化してきたかの違いかと思います。どちらも、一般的な最も多い使い方の中からの二分化です。

デイセーラーはセーリングを強調しますが、同時に操作性も考慮されています。従って、もっとセーリングを強調するヨットも既に建造されてきました。セーリング性能をもっと高めて、レーサーのスピードを容易にシングルで味わえるというデイセーラーも出てきました。これらは、レーサーに言われるレーティングを考慮していない。つまりは、レーティングというしばりが無い故に、高いポテンシャルを持つ。また、スピードが速いが故にワンデザインレースという方向を持つ事になります。ここに至って、デイセーラーも二分化してきています。

一方、沿岸クルージング艇のキャビン追及も、かなり進んできておりますが、キャビン拡大路線も、もうそろそろ限界に来て、今度はその取り扱いを楽にする為にパワーアシストが強調されています。しかし、これは路線的には同じかと思います。

今後の進化はどのようになるかは解りませんが、しばらくは、部分的進化、艤装品の進化が進み、そのうちまた新しいコンセプトが出現する可能性もある。多分、デザイナーは日々頭を悩ませている事だろうと思います。この事は我々にとって選択肢が増える事にもなります。かつては、オールマイティー的なヨットが歓迎されていましたが、現代では、かつての様なオールマイティー的ヨットは消え、より専門化されてきています。敢えて、言えば、今もあるレーサークルーザーがこれにあたるかもしれません。この名前、レーサーとクルーザー、この名前がこのヨットをそこにしばりつけます。セーリング性能とキャビンの両立。という事は、この名前はこのジャンルからはみ出ることは無いので、ここから新しいコンセプトが派生する事は無い。敢えていえば、オールマイティー的なヨットではないかと思います。セーリングもクルージングも楽しむ。そういう方々にとっては良いのかもしれません。クルーが居るならば、そういう選択も悪く無い。

という事で、完全クルージング派には、沿岸のクルージング艇。セーリング派にはデイセーラー。その両方を求める派にはレーサークルーザーという事になるかもしれません。そして、クルーが居るどうかにもかかっていますが。

厳密に言いますと、レーサークルーザーもレーサー寄りもあれば、クルージング寄りもある。それが進化の結果ですから、その進化によって細分化され、専門性を帯るという事は選択肢が増える。それで、我々は何気にヨットというひとつのジャンルにくくるより、自分側のコンセプトが問われる事を意味する。車を見れば明確ですが、セダンがほしいのか、荷物運びたいのか、走る事を楽しむスポーツカーが良いのか?成熟度のお陰で自然にそういう選択をしていますが、ヨットに対しても、これからは、そういうコンセプトをもっと考える時代に入ってきたと思われます。そうでなければ、間違った選択をしてしまうかもしれません。昔なら、そう大きく間違わなかったが、進化が進み、専門性を帯びてきたが故に、合う、合わないが強調されてくる。走りを楽しみたかったのに、キャンピングカーを買ってしまった。或いは、その逆もあるかもしれません。故に、使い方さえ間違わなければ、より楽しみは増えるし、間違うと楽しめなくなる。

ヨットの進化は、我々使う側の進化も促す事になります。そうやって成熟度は増し、進化が進む。ところが、ひとつ問題点があります。欧米の成熟度と日本での成熟度の違いです。これは日本市場の小ささによる。つまりは成熟度が欧米に比べて遅いという事。ヨットは欧米でどんどん変化してきていますから、日本ではより試行錯誤の期間が長くなる。ですから、我々はより意識して、自分達のコンセプトを考える必要があるのかもしれません。市場が小さいのは仕方無い。でも、各個人としての成熟度を増していく。それには、何が起こっているのか、注意深く観察していく必要があるかもしれません。

自分がどんな使い方をしてきたか、そして今、どんな使い方を望むのか?これさえ明確なら、選択肢が多くなった今日、ヨットをより楽しむ事ができる。ファミリークルージングとは言いながら、家族とどれぐらいヨットを楽しんできたか?クルージングとは言いながら、どれだけクルージングを楽しんできたか?そういう事を意識すれば、かつてのように、買い替えはサイズアップを意味するだけとは違ってくる。サイズダウンも有りえるし、コンセプトの変更も有りえる。

ある方が、買い替えの時にサイズダウンされた、多くの方々が、何故?という疑問をもたれました。買い替えはサイズアップが常識だったからです。でも、もはやそういう時代では無くなった。これからは、個人の成熟度を高める時代ではないかと思います。そして、欧米の造船所は、次から次へと、新しいモデルを投入してくれていますから、選択の幅も増える。もし、自分の成熟度がプロダクション艇より先に行ったとしたら、それはカスタム艇という事になる。

欧米ではカスタム艇を建造する方も少なく無い。そしてそのカスタム艇の中から、そのコンセプトが一般プロダクション化される事もあります。デイセーラーもそのひとつであります。デイセーラーはカスタム建造から始まった。しかし、そのルーツは、クルージング艇からの脱却にあったのかと思います。もっとセーリングを、気軽に楽しみたいという人がカスタム建造をした事から始まる。

我々は楽ですね。先に行く欧米を見ながら、そこから自分達に合うものさえ選択すれば良いだけですから。それさえ間違わなければ良い。先に走りますと、新しいコンセプトなんか生み出さなければならなくなります。でも、いつか、そういう時代が来てほしいとも思います。それは、個人の成熟度も含めて、市場の成熟度を待たなければならないのかなと思います。そうなった時、日本スタイルのヨットが生まれる。一体どんなヨットになるんでしょう?

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