第二十三話 ドライブイン

車でドライブするも、途中でちょっとしゃれたカフェに寄る。どこか見晴らしの良いスポットで止まる。
夜景を見る。今からなら、紅葉とかを見に行く。一般的にドライブというものは、そういうもんでしょう。その行き先のスポット、途中経過もありますが、先のスポットが目的になる。

海はと言いますと、そういうスポットになりそうな箇所が少ない。だから、遠くに行かざるをえません。それはドライブというより、旅になります。近場に、そういうヨットを付けられる桟橋があって、1〜2時間のセーリングの後に、気軽に寄れる箇所、それも1箇所では無く、何箇所もあるとか。

デイセーリングを車のドライブ感覚で、そういう立ち寄り箇所がたくさんあって、という環境があるなら、デイセーリングはとっくの昔に、メジャーな使い方になっていると思います。しかし、残念ながら、そういう環境にはありません。だから、遠くに行く。いけば時間もかかる、長時間なら、荒天に合う事も珍しくないし、第一、そうしょっちゅうは時間が取れない。

でも、時間という問題からして、デイセーリングという使い方、車のドライブという使い方が、最も気軽で、すぐにできる方法であります。しかし、地上のようには行きません。ですから、デイセーリングを車のドライブ感覚で捉えると、うまくいきません。

マリーナを出て、どこか2時間以内で寄れる良いスポットが、一箇所でもあるなら、幸です。でも、そうは行きません。あっても、毎回同じ場所では飽きもする。そこで、基本は、デイセーリングが最もヨットを気軽に楽しむ方法である事には違いないと思いますので、問題はそのやり方、考え方になります。

マリーナを出て、全くどこにも寄らず、寄るスポットが仮にあったとしても、どこにも寄らずに、2〜3時間をセーリングして、再び、ホームポートに戻ってくる。こういう最も基本的と言いますか、周りの環境に頼らない手法を想定しておく必要があると思います。これで楽しめるなら、スポットがあるかどうか、それに左右される事はありません。

どこにも寄らないのなら、何を楽しみとするか?セーリングしかありませんね。ボートだって基本的には同じです。釣りでもしないなら、どう使って良いか解らない。まして、セーリングも無いとなれば、尚更です。ボートはどうしたら良いのか解りませんが。

そこで、デイセーリングのセーリングをどうするか?という事になります。ただ、いつものんびり適当に走るだけなら、最初の頃はそれでも良いかもしれないが、やがては、飽きもするでしょう。セーリングの何が楽しいのか?という具合になるかもしれません。人間は環境に慣れる生き物であり、それは、いつも同じなら飽きるという事も意味します。

それでどうしたら良いかと考えますと、深く追求していく。これしか無い。漫然とセーリングするのでは無く、いかにセーリングするかと考える。何を目指すか?スピードですね。いかに速く走るかを問うのは、できるだけ無駄が省かれたスムースな走りを意味します。すべてが適切に近づく事によって、そのヨットのスピードは上がる。その為に、いろんな調整をします。これが簡単な事ではありません。

ヨットの良い所は、初心者が適当にセットしてもヨットが走ってくれるというところです。誰でも、ヨットを走らせる事ができます。そこに留まるなら、楽しみをセーリング以外に求める事になり、どこかのスポットに頼る事になり、それが無いから、どうしようも無いという事になります。ですから、初心者が適当にやって走らせられるヨットを、いかに洗練していくか?複雑な謎解きゲームです。しかも、完成も無い。

野球だって、3割打てば名打者です。ヨットだって、そこそこ行ければ、名ヨットマン。完成するはずもない。で、どこまで行くかは別として、セーリングに神経を集中させて、より良いセーリングを味わいたいという欲求を創り出す必要がある。恐らく、これが唯一の、最も面白い手法ではなかろうかと思わないでもありません。

良いセーリングをしますと、気持ちが良い。充実感が湧いてきます。全ては、この為。たまたまでも、良い風が吹いて、神経が集中していて、快走を味わう事があります。そういう時に、しっかり味わって、その快走感をしっかりつかまえておく。そして、また、あの感じを得たいと思う。

偶然にも得た快走感は、できれば、自分の意思で、自分の技量で、もっと多く味わいたい。偶然よりも、ああして、こうして、そういう意思の結果で得た快走感はもっと増幅される。その為に、良く観察して、感じて、ああでも無い、こうでも無いと、いろんな事をやります。それを10年続ける。その度ごとに、学ぶ事があって、セーリングに対して、深く考えられるし、より鋭敏に感じられるし、より深く知る事もできる。

デイセーリングを遊ぶというのは、こういう事を対象に、面白さを追求しながら、その度ごとに、いろんな感じを得ていく遊びなんだろうと思います。これが日々の使い方の中心になり、後は、その他のバリエーションをたまに楽しむ。どこかに寄るスポットがあるなら、年に数回寄るも良し。誰かを誘うも良し、レースに出るも良し、のんびりセーリングも良し、これらバリエーションは、しょっちゅう行うものではありません。たまにですから楽しい。でも、中心はセーリングにおいてますから、たまのバリエーションで良いという事になります。

セーリングを中心に置くようになりますと、当然ながらヨットの性能も気になるようになる。スピードはもちろん、でもスピードだけではありません。乗ってる感じ、ヒールしたり、波にぶつかったり、いろんな状況でのフィーリングが気になります。また、操作性も気になります。重い、軽い、スムース、バランス、いろいろです。

ヨットをより速く走らせようと考えると、難しさが解ってきます。これが車とは違うところ。アクセルさえ踏めばスピードが上がるのとは違う。難しいからこそ、長い間、求めるに値するという事になります。だから、セーリングそのものが、目的になり得る。簡単ならすぐに習得して、飽きてしまいます。

ヨットでのドライブを楽しむというのは、こういう事ではないかと思います。すると、セーリングにおいて、より気持ち良さを容易に味わいたいという要望に応えたのが、デイセーラーという事になります。キャビンを犠牲にしてでも、セーリングに重点を置いた。それは、ヨットでのドライブを面白くします。そういう遊び方もありますよ、という提案です。これなら、時間もそんなに要らないし、クルーも不要だから、自由自在になりますよ、という提案です。操作は容易でありながら、セーリングの複雑さは、そのままあるわけです。だから、楽しめる。

デイセーラーというヨットでは無くても、もっとデイセーリングを楽しみましょう。最も気軽で、セーリングの醍醐味を味わえる。ヨットのドライブ感覚です。デイセーリングという乗り方が、もっと意識されるようになればな〜と思っています。決してレースに劣るわけでも無いし、決してクルージングに劣るわけでも無い。セーリングはセーリングとして単独で成立するものであります。

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