第一話 操船を楽しむ

セーリングを楽しむというのは、快走を楽しむだけでは無く、操作そのものを楽しんで、その結果をフィーリングとして感じる事かなと思います。ですから、快走しているヨットに乗るだけなら、乗せてもらうのと変わりません。自分でいろいろ操船して快走するから、そこが面白さになります。という事は、操船をいかに楽しむかがポイントでもあります。その結果、快走も良いし、加速感も良いし、ヨットとの一体感も、波あたりも感じます。

フェラーリはスポーツかーとして人気が高い。でも、そのフェラーリにしても、アクセルペダルをちょいと踏み込めば、思ったスピードをいとも簡単に達成できます。車好きのかたには、それ以外にもたくさんの魅力があるのかもしれません。でも、スピード、快走はいとも簡単に達成できます。

それに比べて、ヨットはペダルをちょいとは行きません。燃料である風は一定でも無く、走るフィールドは舗装もされておらず、条件は異なります。ヨットは走る道具ですが、車と違って、いとも簡単に思ったスピードを得る事ができません。その時の風の具合によります。という事は、そこが面白さですよという意味になると思います。

という事は、ヨットを走らせて快走を楽しむというだけでは無く、いかに操作をして、その時の最適を目指すかという事になります。それがセーリングという遊びだろうと思います。7ノット、8ノットを得たとしても、結果はそうでも、いかに操船して達したか、どういう調整をしてきたか、どういう舵操作をしてきたか、それによって面白さは異なる事になります。パワーボートなら、7ノットどころか、
30ノットだって可能です。快走を楽しみますが、そこに至るプロセスが大事なのだろうと思います。

風が吹けば、誰でも、そこそこは走れます。でも、そこに、もうちょっと観察したり、考えたり、いろんな操作をします。バングを引いた方が良いか、シートはどうか、バックステーはどうか、セール形状はこれで良いか、ヒールの具合はどうか?そこを考え、いろいろやるからこそ、そこが面白さになります。その走りにはオーナーの意図があるからです。

例え、十分にうまくいかなかったとしても、オーナーの思う通りの走りにならなかったとしても、それは操作がどこか違ったかもしれない。風はきれいにセールを流れなかったのかもしれません。でも、そこが面白さですから、それを他人任せにしたり、オートパイロット任せにしたりしては、この面白さが減じられます。いつも言いますが、便利が面白さでは無く、便利はあくまで一時的なサポートです。

もちろん、電動ウィンチを使っても良いでしょう、でも、観察して、調整する範囲はオーナーの意図です。その意図と操作が無ければ、ヨットの面白さは無くなります。誰か上手い人に操船させて、オーナーズチェアーに座っているだけ、乗せてもらってるだけ、それと変わらなくなります。

そこで、良く観察して、いろいろ操作をやってみて、どういう反応をするかを、また観察して、また次の操作に反映させる。それにはいろんな知識が必要です。いろんな操作が必要になります。それを面倒くさいと思ったら、セーリングの面白さを味わう事はできません。セーリングとはそういう遊びだろうと思います。

最初はシート操作と舵操作だけでも、そこそこ走れます。でも、学んで、トラベラーの役目、バングの役目、バックステー、カニンガムの役目等を知り、セールカーブの知識を得て、そのうえで、良く観察して、今、どういうセールカーブが良いのかを見て、その形状を形作るにはどういう操作が必要でと考えます。突き詰めれば難しい問題です。風が変わり、波が変わります。いつも変化しています。車を運転するのとは大違いです。難しいです。だからこそ、それが遊びになりえる。求める価値が出てきます。

そういう操作をあれこれやって、そのうえで、意図した通りにスピードが上がったり、いろんな変化を起こしたりする時、プロセスを楽しんだからこそ、結果も楽しめる事になります。それで、良い風吹いて、快走でもしようものなら、何という気持ちになるでしょう。舵を持つ手に伝わる感触、ヒールして走る感触、波にあたる感触、バランスのとれた走り、エンジンで走るのとは全くフィーリングが違います。それがセーリングの面白さであり、ヨットを選択する所以でもあると思います。

そして、操作を楽しんでいるからこそ、快走だけでは無く、いろんな状況をも楽しめる。いつも良い風ばかりは吹きません。良い風の快走しか楽しめないとしたら、そう滅多にあるものではありません。でも、観察と知識と操作を意図の基で楽しんでいるからこそ、いろんな状況でも、楽しみを味わう事ができるようになるのではないでしょうか? すると、面白さのバリエーションも多くなります。

是非、学んで、観察して、意図して、そして操作を楽しんでいただきたいと思います。昔なら、一走りを楽しんで、ビール飲んでとかもあったのですが、最近はビールを飲んじゃいけませんと言われます。まあ、解らないわけじゃない。何事も過ぎるのは良くありませんが、ちょっとぐらい? と思わないでもありません。どうもやりにくい方向に向かってますね、世の中というのは。まあ、それはともかく、法律でセーリングが禁じられる事は無いでしょうから、おおいに楽しんでいただきたいと思います。操作する事を楽しんでいただきたい。しないで良い楽よりも面白い。だから、結果も楽しめるのではないでしょうか?

我々はついつい、良い事ばかりを期待します。快走ばかりを期待します。という事は、その期待が大きい程、快走以外はあまり面白くないと思いがちです。しかし、それで良いんでしょうか?そんな事は滅多には無いので、結局は乗らない事が多くなります。本当に楽しむというのは、快走ばかりか、いろいろな変化を楽しむという事ではないかと思います。ある一定の状況では無く、変化だと思います。もし、快走ばかりになったとしたら、それもつまらないと思うでしょう。そんな事はあり得ませんが。もし、変化が無くなったら、それこそちっとも面白く無くなります。

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