第十九話 集中力
より楽しむ為には、この集中力が必要ではないかと思います。子供の頃は、何もかもが新鮮でした。ですから、自然に今この瞬間にやってる遊びに夢中になります。余計な事を考える事もありません。だから、感激する事も多い。でも、何もかもが新鮮なら、集中力もそんなには要りません。 でも、経験を積みますと、たくさんの事が経験済になり、たいした感激もなくなります。そうなりますと、経験済が多いから、たいして集中しないでも、そこそこうまくやれるようにもなります。うまくやれるようになるから、良いのは良いんですが、反面、新鮮さは無くなり、感激も減少し、集中しないでもやれるので、他の事を考える事が多くなる。つまり、瞬間瞬間の変化をあまりキャッチできなくなる。 年を取りますと、時間が過ぎるのが早いと感じます。1年なんかはあっという間。それは経験済が多くなり、集中しなくてもできるようになり、漫然と過ごす事が多くなるからではないかと思います。それでも、何とかうまくこなせるようになる。 年を取っても、充実したヨットライフを送る秘訣は、この集中力にあるのではないかと思います。ヨットをやる為に、ヨットを学ぶ。学べば、学ぶ程に、経験済になる。経験済が多くなりますと、感激しなくなる。感激は何も良い事ばかりでは無く、兎に角、心が動く事です。知らない事に遭遇した方が、本当は面白いし充実感も沸く。でも、乗れば乗るほど知る事になる。矛盾が生じます。 その矛盾をどうにかする方法は、より知る度に、もっと集中して、もっと知る事ではないか?大雑把な変化を知ったら、もう少し小さな変化を知る為に、少し集中力を上げる。そういう事の繰り返しで、もっと知る。それは上達する事を意味します。 つまり、上達する事以外に、面白さをキープし続ける事はできないのかもしれません。より細かい変化に気付く事で、充実感を得、それは子供の頃と同じように、時間感覚を伸ばしてくれる。夢中になれば、あっという間に時間が過ぎるとか言いますが、その時間の中での多くの経験があるので、密度が高いので、年間とかの時間で言えば、あっという間という事が無くなるのではないか? 記憶の中では、数多くの変化が存在していますから。 子供は遊びには自然に集中してしまう。集中すればする程に、変化が感じられる。面白さの秘訣はこれではないでしょうか?ですから、大人は意識的にも、集中力を高める必要があります。セーリングに出たら、他の事は考えずに、ただそこに浸りきる事が必要かもしれません。 セーリングは変化だらけです。これまでに感じ取れなかった変化も、集中力によって感じる事ができるようになる。良いも、悪いも、全部感じ取って、密度を上げて、一定時間にどれだけの変化を見いだせるか? 意識的集中は、やがて自然な集中に変わる。楽に集中できるようになる。感性は研ぎ澄まされていきます。より小さな変化にも気づけるようになる。そうなっていきますと、いろんな事に簡単に気づきます。見る視点も変わってくる。音にも、臭いにも敏感になるし、体感も敏感になる。 我々は感覚器官から情報を得るしか方法はありません。入ってきた情報を面白いとか、つまらないとか自然に判断しています。その情報をどれだけたくさん入手できるかどうか?それは感覚を研ぎ澄ませるしか無い。それは集中力という事になります。 実際、ヨットを出しますと、普段より、自然に集中力は高まっています。ゴツンと小さな音がしようものなら、何事だ、と思います。エンジンに音がちょっと変わっただけでも解ります。だから、自然に集中力を高めています。でも、やがては、自分のレベルが上がって、それでは鈍いという事になります。自分のレベルに対して、集中力のレベルが追いついていない。だから、つまらないと感じたりします。これを克服するには、もっと集中力を上げるしか無い。 ある事を長い間続けていきますと、その事に非常に詳しくなります。他人が聞いたら感心してしまう程です。ヨット遊びをする、それも何年も、何十年も、というのは、そういう人になるという事、そうでないと面白さは持続できない。本人は面白からやってます。否、面白さを創り出しているのかもしれません。その面白さを創りだすのは、集中力ではないかと思います。 大きな変化は誰でも気付く。そのレベルで集中するのは簡単です。でも、うまくなればなる程に、集中のレベルを高めていく。それこそが、面白さの創造ではないかと思います。 ところで、福岡のホークスが日本シリーズで優勝し、日本一になりました。全合計7試合が行われ、いずれも投手戦でした。点数がなかなか入らない。投手のレベルがどちらのチームも高かった。緊迫したゲームばかりです。素人的には、ポンポン打って、点数が入る方が面白いのですが、こういう緊迫したゲームは玄人好み。玄人になればなる程、細かい事に気づきます。だから、それが面白いのです。 ヨットを長い事をやり続けるというのは、この玄人になるのと同じこと。打撃戦も面白いが、投手戦も面白いと気づくこと。いつまでも素人で居ると、面白さを感じるのはかなり限定されていくのではないでしょうか?良い風が吹くのは、そう多くはありませんから。 |