第四十九話 レーサークルーザー

その昔、クルージング艇と言えば、ごっつい頑丈な、それこそ外洋を走れるヨットだった。今日のクルージング艇は、そこから見ればレーサークルーザーに見える。排水量は軽くなって、見た目も小奇麗で、昔程のごっつい感じは無くなりました。今でも、海外からヨットで来る人達から見れば、日本にある殆どのヨットを見て、日本人はレーサークルーザーが好きなんだなと言われます。

ところが、我々の認識では、これらは殆どがクルージング艇です。レーサークルーザーとは違います。彼らの認識とは全然違います。彼らのクルージング艇は、我々のクルージング艇とは違う。

私は、日本で乗るなら、今で言う、我々の思うレーサークルーザーの方が面白いと思っています。
高いセーリング性能と、高いスタビリティーがあって、硬いハルで、軽く、でも強く、そのうえ、キャビンもしっかり充実しています。まあ、そこまで充実していなくても、日本での使い方ならシンプルでも十分かと思いますが。

それは今は、レーサークルーザーと呼ばれますが、ひょっとしたら、このレーサークルーザーと称するヨットが、将来は当たり前のクルージング艇と呼ばれるようになるかもしれない。沿岸部で、ヨットを遊ぶ場合、セーリングを含める方が面白いと思うからです。

そうなりますと、今の我々が言うクルージング艇は、何と呼ばれるか? ハウスヨット? キャビンヨット? そんなところかな?勝手な言い分で、済みません。そうなりますと、そう割り切ってしまうと、より使い勝手が良くなるとも思います。もっとでかいエンジンを積んで、機走能力を高め、操作を簡単にする為に、バウスラスターを設置し、或いは、ジョイスティクによる横歩きを当然の事として、エアコン積んで、快適空間、広々空間を演出する。コクピットだって、全部おおって、快適に操船できる。何だか、パワーボート近づいている。でも、そこまでは無くて、セールもあって、浅いキールもあって、例えば、トローラーに近い様な、それでいてセールもあるヨット。沿岸伝いに、うろうろ回れるし、回らなくても、快適キャビンで過ごせる。スピードも10ノット以上出るくらいの方が良い。これって、モーターセーラーか?

セーリングの比率を低めたら、もっと快適なヨットになります。セールは気がむいた時用、エンジントラブル時でも、走る事ができる。つまり、今は、セールが主機で、エンジンが補機ですが、それが逆転して、エンジン主機、セール補機となる。でも、実際の使い方から考えても、その方が快適であります。つまり、快適を目指す。

一方、レーサークルーザーは、これがクルージング艇となって、セーリングを楽しみ、時にクルージングにも行ける。どちらかと言うと、セーリングの方に重きをおきます。こちらはスポーツ感覚です。
日本人の一般的使い方からすると、こういうヨットの方が使い方として合うのではないかと思うのですが。

もちろん、前記のキャビンヨットは、寝泊り前提のクルージングを含めたハウスのようなヨットです。
海外には受けると思うのですが?

言葉が印象を生み出し、使い方を限定してしまう。そこが問題で、我々の行動をも限定してしまいます。今日のレーサークルーザーは、レースをしないクルージング派で、年間に何度かはクルージングを楽しむも、日常的には、近場に居て、デイクルージングやセーリングを楽しむというような人達向きではないかと思います。もちろん、キャビンに泊まる事などは滅多には無い。そういうヨットが当たり前になって、みんなが使うようになったら、レーサークルーザーのレーサーという言葉が取れて、クルーザーになる。レーサーという言葉が、我々の印象を限定しているかと思います。別にレースしなくても構わない。だから、ハイパフォーマンスクルーザーという言葉も生まれた。

実は言葉の定義以上に、現実は複雑であります。仕方ないから、何とか近い言葉を生み出してあてはめる。そこで、みんながどんな印象を持つかが重要になります。デイセーラーという言葉は、日帰りセーリングヨットという印象を持つかもしれません。でも、キャビンもちゃんとある。でも、そう大きくは無いので、一方ではウィークエンドクルーザーという副題を付けたりします。何とか、より本当のコンセプトに近い言葉を探しているんですね。

我々は、ちゃんと見て、自分の使い方に合うヨットを見つけなければなりません。言葉を超えたコンセプトを見出せれば、もっと楽しめるかもしれません。

レーサーという言葉にしても、本格グランプリレーサーもあれば、シンプルながら、結構キャビンがちゃんとあるレーサーまであります。同じ言葉でも幅が広い。これを同一カテゴリーに入れるのはどうか、と思いますが、その言葉が見つからない。

昔、レーサークルーザーとクルーザーレーサーという言葉を前後入れ替えた単語がありました。最近ではあまり聞きませんが。レーサークルーザーは基本的にはクルーザー、クルーザーレーサーは基本的にはレーサー、そういう違いとして受け止めていましたが、最近はあまり聞かない単語なのではないかと思います。これも復活させた方が良いかもしれない。

いずれにしろ、言葉で、そのヨットの全てを表現するのは難しい。でも、今後は、もう少し言葉を増やして、ジャンル分けを進めた方が良いかもしれません。レーサー、クルーザーレーサー、
レーサークルーザー、ハイパフォーマンスクルーザー、デイセーラー、ウィークエンドクルーザー、クルージング艇、キャビンヨット、外洋本格クルーザー等々?本当はこれでも足りないぐらい現実のヨットは多種多様です。

進化は、よりカテゴリーを細かく分類していきます。これまでには無かったジャンルも生まれます。既にある物同士のギャップを埋めるようなタイプが出てきます。それを表現する言葉が無い以上、もっと見る必要があると思いますね、言葉に惑わされないように。

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