第五十三話 セールの性質

通常、クルージングで使っているセールの素材はダクロンですが、その他、カーボンだ、ケブラーだといろいろな素材があります。これら素材の違いは、その重量と伸びが少ないという違いになります。形状は、デザインとカットによりますが、その理想的形状をキープしやすいのが、伸びが少ないセールという事になります。反面、折りたたむとか、紫外線とかに弱いという事もあって、クルージング艇では、ダクロンを使う事が多い。

そのダクロンも、例えば、ダクロンをフィルム状にした物をマイラーと言いますが、それを薄いダクロン生地の両サイドに貼り付けて、伸びを抑えるとか、カーボンテープを貼り付けて伸びを抑えるとか、クルージングでも、セーリング重視に耐えるセール等、セールメーカーはいろいろ開発を重ねてきます。もちろん、良いセールを作ったら、ハリヤードも伸びが少ないロープに替える必要があります。それはセールが伸びにくいとして、ハリヤードが伸びたのでは、セールの性能を十分に発揮できなくなるからです。

さて、今度は形状について。メインセールにはバテンが横方向にあります。セール面積を大きく取る場合、マストの高さとブームの長さに限定されますが、もうひとつリーチ側にローチを取る事ができます。リーチ側の膨らんだカーブの部分ですね。バックステーに制限はされますが、目一杯取る事ができますし、また、バックステーが無い艇では、もっと大きく取る事ができます。バックステー無しのヨットを作るのはこの為ですね。

ローチをとり、きれいに形状を作るにはバテンが必要になります。一方、ジェノアにはバテンがありませんから、ローチが取れない。リーチ側は膨らんでいません。でも、最近、たまに見るジェノアには少し膨らんだ形状のジェノアがあります。元々、ジブセールは風速によって取り替えるものであり、ローチ云々より、セールを替えた方が良いわけですが、最近では多くのヨットがファーリングですし、一部のレースをされる方もファーリングを使われる事が多くなりました。すると、セール交換はしないで使いますから、ローチを少しでも大きくしようか、という考え方も出てきます。

しかし、メインセールのように、横方向にはバテンを設置できない(ファーラーだから)ので、縦に入れる。すると、大きくは取れないが少しはローチが取れるようになります。こうやって、少しでも、セール面積を稼ごうという事ですね、スピードの為に。

大きなジェノアをファーリングにしたら、巻けば、セール面積を大きくも小さくもできるわけですが、事はそう単純では無く、全開の時は良いとしても、少しでも巻けば、セールの上下にテンションがかからなくなります。それで、ドラフトは後退します。ですから、レーサーは相変わらず、何枚ものセールを持って交換します。しかし、一般的な使い方では、それでも良いじゃないか、何枚もセールを持つのはコストがかかるし、それに面倒です。

上りの時、十分の風があるなら、上り角度をギリギリまで稼いで走る事ができます。その時、風をはらんだジェノアのラフは、その風圧の影響で丸くカーブを描きます。それでは角度が稼げないので、バックステーを引いて、フォアステーのサギングを取る事になります。セールもフラットに。もし、風があまり無いなら、角度稼ぎではスピードが出ないので、角度を落として、セールもゆったり張る事になります。できるだけ揚力を作り出そうという事になります。メインセールはマストにラフが入ってますから、ラフが丸くなる事は無い。

それで、上りで、角度を稼げば稼ぐ程に、ラフは真っ直ぐにという事になります。(厳密にはちょっと違いますが)という事は、セールが何であれ、そういう手法を取る。ジェネカーを上りで使ってもある程度は上れます。でも、セールのラフはカーブしており、元々上る為のセールではありませんし、ジェノア程上れるわけでは無い。ラフにテンションをかけてジェノアのように使う事はできません。

ところが、ラフを直線にカットして、補強をいれますと、これはファーリング方式にする時のひとつですが、ラフにテンションをかけて、ある程度は真っ直ぐに近くできます。という事はもっと上れる事になります。もちろん、ジェノアのようにはいきませんが、ジェノアで角度を落として走るなら、微軽風なら、こういうジェネカーも考えられる。多分、見かけの風で、50度、或いは40度ぐらいいけるかもしれません。

一方、下りになりますと、通常のジェネカーでしたら、角度を落としていきますと、ラフ側が、ヨットの反対舷にまで出てきて、結構な角度を落とせます。しかし、直線のラフを持つジェネカーの場合は、ラフが固定されますので、そうはいきません。ですから、通常ジェネカー程には角度は落とせないという事になります。何が邪魔するかと言えば、メインセールの陰になるからですね。でも、多分、見かけの風で135度ぐらいまでは落とせる。

もうひとつのファーリング方式である場合は、通常のジェネカーを使えますので、下りを通常のジェネカーの性能で落とせる事になります。ただ、あまり落とすと、メインセールも目一杯外に出しますから、特に波が不安定な場合はワイルドジャイブの危険性も考えると、舵操作により神経を使いますし、クルーが居るなら良いのですが、居ない場合は、セールにも気を使わねばなりません。それで、シングルなら、あまり落とさずに、少し上り気味ぐらいが良いかもしれません。そう考えますと、ジェネカーのラフを直線にしたファーリングジェネカーでも良いじゃないか? とこういう考え方ができます。

つまり。、シングルの場合、ラフを直線にしたジェネカーをファーリングで使いますと、微軽風時で、ある程度上れるし、下りもできる。それに、ラフテンションがかかっているので、セールは左右に振れずに安定もしている。レースを本気でしない限り、シングルハンドの方には、実にやさしいセールではないかと思います。

そして、クルーが居るなら、通常のジェネカーの方が良いでしょうし、ファーリングにしても良い。二人での操船ならファーリング、三人以上居るなら、ファーリングで無くてもスナッファー(長い袋)でも良いかなと思います。もちろん、このファーリング方式で、シングルでも可能です。慣れの問題だと思います。

ところで、コードゼロと言われるセールがありますが、これは微軽風の上り用です。このセールを似た感じで、スピン生地で作る。すると、微軽風時ですが、上りか、アビーム、そして下りまで使える。そういう事になります。これと同じような考え方がファーリングジェネカーのひとつです。上りも想定しますと、ちょっと厚めのスピンクロス、1.0オンスとか、それ以上とか? どちらにしても、ジェノアより遥かに軽いので、微風でもセールが開いてくれます。
そういう時、シートはスナップシャックルなんか重い物を用いず、直接結んで、軽く。ロープも細く、軽くしたいところですが、引く時に手で引く場合、ある程度の太さが無いと引きにくいという事もありますので、そのあたりも考慮します。

まあ、そんなこんなを考えて、自分なりのセールプランを考えてみるのも悪くないと思います。ジェノアは上り用。微軽風だったら少し落として走る。ならばジェネカーを活用しよう。シングルだったら、ジェノアよりも、小さなジブの方がタックもし易い。中風、強風ならそれで良い。それで微軽風になったら、ファーリングのジェネカーを展開する。という事で、私の理想セールプランは小さなジブと大きなメイン、それにファーリングジェネカーを装備する。と、こうなります。あくまで、レースは想定していません。シングルでオールラウンドセーリングを想定しています。もし、クルーが居るなら、そこは臨機応変ですね。

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