第九十五話 素材

良い素材を使えば性能は上がります。セールにはケブラーだ、カーボンだとありますし、船体の建造においても使われます。確かに、軽い、伸びが少ない、強い等々の特性がある。しかし、それを支えるのが工法ですから、この工法いかんによる影響が大きいのではないか?

カーボンを使って、軽く強くする事は可能です。価格に糸目をつけないなら、全部カーボンでという事もできます。しかし、それに見合う工法でなければ、その素材の特性をいかす事はできません。
という事は、カーボンを使って値段が高くなって、それに見合う工法になって、さらに価格も上がる。そういう事になっていきますね。

ハルにカーボンを使ったとしても、例えば、それを補強するストリンガー(骨みたいな物)が、きちんと制作されて、ハルに積層されていないといくらカーボンで造ってもねじれます。そういう工法をきちんとして、そのうえでカーボンなんかで造りますと軽く、強くできる。そうすると、その恩恵は、スピードのみならず、滑らかさを感じます。

カーボンでは無いにしろ、硬い船体は滑らかさを感じます。見た目では解らない船体の曲がりというのは、人間の感覚として感じれる。人間の感覚は実に鋭いもんだな〜と思います。

セーリング遊びは感覚遊びだと思いますので、どんな感じを得るかが重要だと思っています。いろんな素材が開発されて、ヨットの建造に使われます。それらは、目には見えない物で、便利でも無く、楽しいわけでも無く、隠れた存在です。でも、これが違うと、セーリングが違う。しかし、それを支えるのは工法になると思います。

それで、敢えて言えば、素材より工法の方がもっと重要ではないかと思います。エキゾチックな素材を使わないでも、従来からのグラスを使っても、工法次第では、強くできます。また、最新工法では、同じ素材でも、昔より軽く強くできるようになりました。素材は、この上に成り立つものかな?

最新工法では、バキュームバッグ方式(これは以前もありました)、これに加えて、樹脂量とグラスの比率をコントロールできるようになりました。バキュームバッグ方式は、真空引きして、気圧をかける。これが非常に大きな庄で、積層密着させるのに非常に良い。昔の方式は、これで余分な樹脂を抜き取る事だったのでしょうが、今では、この樹脂量をコントロールできる。樹脂とグラスの適切な比率が最も強いハルを造る。

それで、昔、一部のレーシングヨットなんかは、グラスを予め適切な樹脂量を浸透させて、それから積層していました。手間のかかる仕事です。それを最新工法ではできるようになったので、強度は、このレーサーと同じ強度にできるというものだそうです。

でも、それだけでは不十分で、船底に設置される骨組み補強、内装の家具類、バルクヘッド、これらもくっつけただけでは無く、きちんとグラスを積層する事によって、さらに強度を高める。あるヨットではパテ接着というのもありました。積層に比べれば手間がかからない。でも、船体がねじれたりして、何年か経つと、バテが割れて、離れてしまった。これでは強度にはなりません。

船体が強くなったら、それに見合うマストやセールをくっつけたくなります。もちろん、それ無しでも、違いは感じられる。でも、そこに良い素材のセールを設置しますと、さらに発揮できるようになります。でも、レーシングヨットじゃ無いわけで、相変わらず、ジブはファーリングにしたいし、メインセールだって、ブームの上にたたんでおきたい。それで、セールメーカーもそれに応えるように、紫外線に強い、折りたたみに強い、でも、伸びにくい、軽いセールを開発してくれます。セールの寿命の問題もありますね。留まる処を知らない。追えばきりなくあります。

でも、素材は兎も角、工法については、ちょっとこだわりたいな〜という気がします。ハンドレイアップでも良いし、バキューム方式でも良いが、硬い船体はやっぱり違う。ある回航屋さんの弁ですが、速いとか遅いとかいろいろあるけれど、良いヨットは疲れないと言ってました。それは船体のデザインもあるでしょうが、強さなのではないかな〜?

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