第34話 ヨットのエッセンス

ヨットは動けば良いといえばそれまでです。私も初心者の方には、取りあえず、動けば
良いというレベルなら簡単ですと申し上げます。でも、それが過ぎたら、次はより良く走る
事を目指していただきたい。滑らかに、思うように、風を捉えて、ヨットと自然と一体となって
走るのを目指していただきたい。うまくなろうと思う事が長く続ける、ヨットを係留したままに
ほったらかしにしない秘訣です。キャビンでくつろぐ事を優先的に思うと、ヨットから離れて
しまいます。何故なら、家に居た方が快適だからです。どういう視点から捉えても、家の方が
快適なのです。セーリングの後にちょっとくつろぐ、時化て出れ無い時はキャビンで読書をする
も良い。でも、第一はセーリングに置く事をお奨めします。ヨットを別荘代わりにも使えると思う
人は多い。でも、見る限り、別荘代わりに使っている人は少ない。来てもほんのまれにです。

初心者の方々の場合、マリーナの事情にもよりますが、ヨットの出し入れに苦労する方が多い
出してしまえば、広い海ですから何とかなるものの、出入航時に風の影響で流されたりして、
他のヨットにぶつけそうになって冷や汗かいて、そして次に出す時にはその感覚がよみがえり
楽しみより、恐怖が先に来る。何とか出せても、最後には入航という恐怖が待ち受けている。
或いは、セーリング中にも帰りの事が気になって楽しめないかもしれない。こんなことでは、せ
っかくのセーリングが台無しになるのです。ですから、気軽に出せるサイズをお勧めしますし、
風圧面積が小さいヨットをお奨めします。慣れれば、どおってことは無いのですが。

風だけで走る感覚は何とも形容しがたいのですが、セールを上げて走り出す。シートを出して
角度を決めて走る。時折、少し強い風が入り、船体はヒール角度が増して、それに合わせて
シートを少し緩める。うまくなると、風が変わってもヒール角度を一定に保つ事ができる。スピー
ドが上がったり、下がったり、タックしたり、ジャイブしたり、うまくなると、これら一連の動作が
スムースできるようになる。それに広い海面を見て、あそこに行く為にこの先のどこでタックして
という、幾何学的な計算をする。まだ初心者だった頃は計算とおりに行かずに、目的地に到達
するにはもう少し上り角度がほしいのに、限界まで上ってもすこしずれてしまい、もう一度タック
しないといけなくなったり。それがうまくなると、ピタリと合う。

仲間とおしゃべりしながら、飲み食いしながらセーリングするのも、もちろん楽しいのですが、
無心になって、こういうセーリングを楽しむのは実に爽快です。

慣れてくると、ブローが入る前にわかりますから、シートを出す準備をしておける。どのくらいシ
ートを出せばいいか、感覚的にもわかってくる。風の進入角度に対して、セールをどう扱ったら
いいかもだんだん解ってくる。滑らかなタックの仕方もわかってくる。前から、横から、後ろから
それぞれの風の方向にどんな風にスムースに走れるか、こういう動作が滑らかに操作できれば
これは快感です。仲間とおしゃべりも楽しいものです。でも、それ以上の感覚を味わえます。これ
こそが、ヨットでしか味わえない贅沢な感覚です。こうなるとヨットはスポーツです。軽く汗を流す
つもりで、感覚を研ぎ澄ませて走るスポーツ。テニスや他のスポーツほどしんどくないし、感覚の
スポーツですね。日常でもこんなに感覚を研ぎ澄ませる事は無いと思います。人間は考える動物
だと言われますが、違います。人間は感じる動物です。何をするにしても、どんな感覚を持ったか
が人生の質を決めます。ヨットは間違い無くあなたの人生を豊かにしてくれます。

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