第69話 フェラーリ

ご存知、イタリアの高級車ですが、車好きなら一度は乗ってみたい車のひとつでしょう。
2004年モデルの世界に65台しかない車で、2000万オーバーだそうです。この車は
遊び感覚オンリーです。この車に仕事をさせようなんて感覚は全くありません。どのくらい
の荷物が積めるか、何人乗せられるか、買い物に使うとか、そういう仕事感覚は全く無い
わけです。遊び車です。スピードを楽しむ、加速感を楽しむ、姿を楽しむ、カッコ良さを見せ
つける。全ては遊びで感覚の世界ですね。

ヨットもこれと同じなんです。感覚の世界。誰もヨットに仕事をさせようとは思いません。この
遊び感覚満杯であるヨットには、自分の遊び感覚一杯に選ぶのが良いと思うのです。フェラ
ーリで日本一周できますが、そういう人は居ません。キャンピングカーの方が良いに決まっ
てます。フェラーリはフェラーリらしく乗るのが良い。ヨットにも、同じ事が言えます。
ヨットというと外洋性とか、頑丈とか言います。しかし、その前に、もっとスポーツカー的な感
覚があっても良いのではないでしょうか。どうせ仕事をさせるわけでは無いのですから。

以前、ヤマハから31フェスタというモデルが出ました。セルフタッキングジブを装備し、内装
も極めてシンプルです。このヨットが良いかどうかは別にして、このコンセプトは素晴らしいと
思うのです。気軽に乗れて、セーリングを楽しめるヨットです。でも、あまり多くは売れなかっ
たようです。今では生産もしていませんし、モールドも捨てられたようです。造られた時代が
早かったと思います。惜しいですね。でも、今からはこういうヨットがもっと出てくるのではない
かと予想しています。10年前はせっかくついていたセルフタッキングジブを使わず、わざわざ
通常のジェノアに変えていた。微風ではその方が確かに速い。でも、これからはそういう時代
では無いと思うのです。もっと気軽に、簡単にセーリングを楽しむ時代になってくる。

車のように普及が進むと、自分らしい使い方がわかってきます。ヨットも同じで、昔はヨットは
外洋性があるのがあたりまえでした。でも、今は、みんながみんな外洋に行く事は無く、むしろ
外洋に出ない人の方が多い。それで、そういうヨットが増えてきた。近場をスポーツカーのように
乗りまわす人、外洋を目指す人、それぞれで良い。それで、自分はどちらなのかという事です。
圧倒的に、相応しいのはスポーツカーです。そういうのに、外洋の居住性が必要ですか?
あればあったで、弊害もあります。ヨットに住むわけでも無い。それより、手軽で、シンプルな内装
で、使いがって良くて、帆走が楽しく、そして、気に入ったかっこいいヨット、こういうヨットの方が
良いと思うのです。面白いと思うのです。

外洋艇でも無いのに、キャビンが広く、装備もたくさん、そういうヨットが多いのですが、これは帆走
を楽しむのと並行して、キャビンで遊ぶ、住むに近い感覚、別荘に近い感覚です。ですから、帆走
半分、居住半分、或いは、居住70%くらいかもしれません。でも、そういう感覚、使い方は日本の
ライフスタイルには合わない。せっかくの居住性がありながら、どこかに行って、ホテルに泊まる人
の多い事。キャビンを遊ぶ感覚、キャンプ感覚なのですから、それが無い。仮にあっても、どこかに
行った時だけでは不充分です。日常でキャビンを遊ぶ感覚を持つ欧米人のライフスタイルを持つ、
そういうコンセプトなのです。セーリングはデイセーリングだけども、ヨットに週末家族で泊まったり
する人向けです。ところが、日本人にはそういう感覚はちょっと無理ではないかと思うのです。
第一、家族がヨットに来ない。

そこで、提案です。外洋を目指す人は本当の外洋艇、頑丈さとか、居住性とか、そういうヨットが良い
ですが、そうでは無い方々には、居住性より乗って面白い、使い勝手の良い、手軽でカッコイイヨット
の方が楽しい。車で言うならフェラーリが良いのです。自分流のカッコ良いヨットを見つけてほしいと
思いますね。

デイセーリングを馬鹿にしてはいけません。デイセーリングこそが、誰でも楽しめるヨットのエッセンス
を持っています。欧米の造船所でも、すこしづつそういうデイセーリング、ただ、小さいというのでは無く
ある程度の大きさがあっても、デイセーリングというコンセプトのヨットが出てきています。これからは
デイセーリングで帆走を楽しむか、或いは、外洋を目指し、荒波を乗り越えて船旅を楽しむか、そういう
コンセプトを明確に持った方が何倍も楽しめる。

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