第78話 アメリカ

もう随分昔になりますが、初めてアメリカに行った時のことです。ご多分に漏れず、ロサンゼルスに行った
のですが、そこからサンフランシスコまでの距離を、地元の人達は”すぐそこ”という表現をしていました。
距離にして約600kmほどあります。日本では、すぐそこ、という表現はしないでしょう。大陸ならではです。
ロサンジェルスから列車でワシントンDCまで行った時は、シカゴ経由で、夜寝る前にトウモロコシ畑でした。
で、朝起きるとまだトウモロコシ畑を走っていた。今度はワシントンからロサンジェルスに車で、それこそ給油
以外はノンストップ、昼夜走りつづけた事があります。時間にして、2日半でした。距離にして約4,400km
です。広大な土地を持つアメリカ。日本人の持つ感覚とは当然違ってきます。

広大な土地に、世界中から人々が集まり、この国を形成しています。各人種はそれぞれ独自の考え方を持
って、同じ土地に住んでいる。意見は違って当たり前、違うのを互いが認める。従うわけではありません。
お互いが知らない同士ですから、表面上はとてもフレンドリーに振舞う。道で出会ったら、見知らぬ同士が
挨拶を交わすし、目と目が合ったらにっこりします。可愛い女の子からにっこりされると、思わず勘違いして
しまいそうです。これは知らない同士だからこそだと思います。日本では同じ民族、安心なのです。

知らない者同士、他人の事は気にしていません。自己主張が強い。そうでなければ、存在価値が無くなる。
だから、いつも自分は何者であるかを主張します。力のある者は成功を勝ち取り、それこそメガヨットを買う。
一方、負けた者は落ちぶれていく。極端です。資本主義の本家、競争社会の本家本元です。主張こそが
存在の証明であるならば、彼らは、誰に遠慮すること無く、成功した者は屋敷を買い、大きなヨットを買う。
成功のシンボルです。つつましくなんて事は無いのです。一方で、成功者は寄付をするのが当たり前という
考え方がある。成功者はお金を回せという事かもしれませんね。成功者がお金を溜めるばかりでは、嫌われ
ます。

こういう人種の坩堝と言われる国を、簡単に表現するのは難しい。アメリカ? 大雑把、ラフ、そんな表現を
聞きます。でも、これはほんの一部を見たに過ぎない。これだけの人種に供給する物は、確かにラフな物か
ら非常に緻密な物まである。最低から最高までがあると思います。あらゆる層に供給する為です。そうでないと
どうやって、人間を宇宙に運べますか。どうやって、正確にミサイルを打ち込めるでしょう。ステーキひとつとって
もそうです。安いレストランで、ばかでかいステーキが硬くて、ただ、でかいだけというのもありますし、東海岸
のレストランで食べたステーキはとてもおいしかった。

ヨットでも同じです。安い物から超高級もある。ロードアイランド州にアルデンヨットという造船所があります。
この造船所の周りの家はまさしく、マンションと言われる屋敷ばかりです。門から家の玄関まで、歩きたくは
無いような距離、屋敷には50部屋ぐらいある。ビバリーヒルズの比では無い。造船所の社長はマクファーレン
という方で、ここにあるニューヨークヨットクラブのメンバーでもある。このクラブの建物が非常に古い物で、宿泊
施設もあるのですが、ピカピカに磨き上げられ、庭に大砲が置いてある。かつて、故ケネディーが目の前を
セーリングしていた時に、良く、この大砲(空砲)を打ったそうです。ケネディーがジャクリーヌと結婚した教会も
ここにある。

こういう環境で作られるヨットとはどんな物でしょう。3世代、この造船所で職人として働いている者も居る。全て
が最高級でした。100年続く造船所なのです。この地の冬は非常に寒いので、冬はヨットを陸上げし、屋根付き
倉庫に保管します。そして、春になって、一通り整備して、再び、海に戻す。木部は20回ぐらいニスを塗られ、
ピカピカもいいとこです。年に7艇しか造らないと言っていました。はっきり言ってスワンより高いです。私が
訪問した際、丁度、他の客がこられていました。食事を一緒にする機会があったのですが、その時聞くと、彼は
最近会社を売って引退したそうです。その金額が何と400億円以上だそうで、桁が違う。造船所の社長曰く、
100年後に見ても、美しいヨットを造る。

こんな会社もアメリカの会社のひとつなのです。ちなみに日本には一艇も入っていない。誰か居ませんか?

次へ        目次へ