第五話 職人魂
イタリアのディナミカヨットの造船所を訪問してきました。ここが建造するのは、31フィートのデイセーラー、ディナミカ940です。このヨットのコンセプトはもちろんデイセーラーですが、超ハイパフォーマンスを謳っています。つまり、一般デイセーラーがハイパフォーマンスとしたら、このヨットは超ハイパフォーマンスで、セールエリア/排水量比は30を超え、レーサー並みです。 そんなヨットを建造する造船所はどんなものか? すこしばかり大きなセール設定ではあるものの、パフォーマンスを向上させるには、軽い船体が不可欠です。そして、軽いが、高い強度を持たせる必要があります。それはどうやって造るのか? まずは、職人のレベルです。イタリアは元々 職人の国です。職人が働くのは少量生産、 手造りにおいてその魂が発揮されます。 それが、大量生産という概念が生まれて、 こういう熟練の職人さんの需要が減ってきた。 彼は、親の代からの職人さんで、久しぶりに こういう職人魂に出会いました。 船体やデッキはエアレックスのサンドイッチ 構造、エポキシ樹脂のバキューム/インフュ ージョン工法、これは最新の技術です。 ここまでは、他の造船所もやっている事です が、ディナミカでは、ストリンガー、家具類等 全てが同じ構造、工法で建造されていました。 これらが、全て船体の剛性を高めます。また、 バルクヘッドの数も多い。 木材は一切使っていませんでした。但し、 床面にはチークがきますが、これは強度には 関係ありません。 モールド一発で型抜きするのでは無く、 各ピース毎に、エポキシのバキューム/ インフージョン工法で、サンドイッチ構造です。 そして、各ピースをオーブンに入れて一晩 熱を加えます。 さらに取り出したら、裏も表もサンディングし て磨き上げます。 でっかいオーブンです。ヨット一艇が丸ごと 入ります。 各パーツを作成し、そして、全てを組み立てる そして最後に、丸ごとオーブンにもう一度入れ ます。 ここまで手間をかけて建造するヨットも珍しい。ハイパフォーマンスというのは、軽い、強いが同時に必要で、それは容易い事ではありません。決して、量産なんかはできない。そこまでしないと、軽く強いヨットはできないんだな〜。 それがセールエリア/排水量比が25ぐらいに下がると、それでも、かなりのハイパフォーマンスですが、ここまで軽くする必要はありませんから、強度を増すにもしやすくなります。つまり、パフォーマンスのレベルをどこらあたりに設定するかにかかっています。 イタリアという国のイメージはのんびり、いい加減というようなイメージもありますが、職人魂が息づく処では、全く違う。レベルは非常に高いです。そう言えば、バイオリンのストラディバリウスだってイタリア生まれ。イメージが変わりました。 それで、みんなこのヨットでレースしているのかと言うと、半分以上はレースはせずに、シングルハンドや家族でのデイセーリングを楽しんでいるとか。やっぱり、イタリア人はスピード好きなんですね。 |