第六十二話 トレンド

世の中が進化し、過去のやり方も変化していきます。そして、それらは成熟すればする程に、各専門に分化していくと思います。

昔、ヨットと言えばレースするか外洋を含めたクルージングと考えられていたと思います。しかし、やがて、外洋に行く方は実際は少なく、沿岸あたりの方が圧倒的に多い。それゃあそうです。時間もあるし、技量もあるし、まあ、根性もある。それで、沿岸用のクルージング艇が出てきました。

レースにしても、本格レースばかりをやるわけで無く、クルージングを含めたレースを楽しむ方も多く、よって、本格レーサーとしてより高いパフォーマンスを目指すヨットと、クルージングも可能なレーサークルーザーが出てきます。そして、さらに、レーサークルーザーも、もう少しレーサー寄りのヨットも出てきます。

つまり、レーサーがあって、レーサー寄りのレーサークルーザーがあって、クルージング艇寄りのレーサークルーザーがあって、沿岸用のクルージング艇、外洋用のクルージング艇と分化してきました。まあ、以前は、レーサー寄りのレーサークルーザーは、クルーザーレーサーと呼んでいた時もあります。

そして、これらは、各分野において、さらにその特性を強めていきます。工法や構造に、素材にと新しい考え方等が考慮されていきます。そうすると、ますます、各分野は専門性を強めていく事になります。

という事は、使う側にも、その専門性に対するそのコンセプトのより明確化が要求されていきます。
昔よりも、合うか合わないかが、著しく影響するようになります。そして、合えば、より楽しむ事もできます。でも、合わないと、使えなくなるかもしれません。

今日のトレンドはショートハンドです。レーサーにおいても、クルージングにおいても、クルー不足だからです。これを解決しようと、デザイナーや造船所は新しい考え方に基づくヨットを建造しています。レーサーは昔より、キールバラストの重量が高くなったのではないかと思います。もはや、たくさんのクルーで、体重移動という事が昔の様にはいかなくなりました。また、ランニングバックステー付きも無いし、スピンポールを使わないジェネカーが多くなってきた。

クルージング艇において明らかなのは、メインセールのファーリングシステムの採用、電動ウィンチの採用、もちろん、オートパイロット、バウスラスター、スターンスラスター等です。そして何より、キャビンの拡大です。

レーサーにしても、クルージング艇にしても、少ない人数で対応できる事を考えています。これと並行して発展してきたのがデイセーラーです。これはレーサー寄りとか、クルージング寄りとか、そういうのとは無関係で、セーリングそのものを楽しむ事を目的とした新しいコンセプトと言っても良いかと思います。

セーリングを使ってレースを楽しむとか、セーリングを手段に旅を楽しむとか、それらとは全く違い、セーリングそのものをもっと楽しもうというアイデアです。セーリングを楽しむわけですから、セーリング性能には気を使います。言うならば、車のスポーツカー的存在を目指したヨットです。

シングルハンドを基本にし、セール操作を簡単にでき、あらゆるヨットの中で、最も気軽にセーリングを楽しめて、尚且、その性能から乗り手がその気になるなら、高度な操作にまで対応できる。

セーリングをスポーツすると言いますと、すぐにレースと考えがちですが、デイセーラーはより高いポテンシャルを模索しながらも、その目的は、レースでは無く、セーリングの質を高めて、セーリングそのものを楽しもうという事です。まさしく、スポーツカーを我々が乗り回すという感覚です。スポーツカーを買ったからと言って、レースに参加する人なんか殆ど居ません。多くは、そのドライブフィーリングを楽しんでおられると思います。そして、スポーツカーが放つワクワク感です。

デイセーラーはそういうヨットなのです。日本にも、このトレンドがより強く流れて来る事を願っております。美しく、カッコ良く、そのヨットのポテンシャルを楽しむ。セールフィーリングを楽しむ。そういう方々が増えていく事を願っております。

圧倒的に多い沿岸用クルージング艇が、そのボリュームを拡大していく中で、デイセーラーのボリュームは小さい。大きさに価値を見出すと、デイセーラーには向いにくいかもしれませんが、でも、そのデザインと性能を見ますと、やはりスポーツカーなのです。まだ、解る人が少ないかもしれませんが、解る人が増えると、もはや大きい事は良い事だという感覚は薄れていきます。それには、時の流れを要するかもしれません。既に、デイセーラーでセーリングしていますと、多くの方々が振り返って見られます。そのトレンドは来ている。成熟した欧米がそうであるように。

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