第八話 セーリングの要素

レースしなくても、セーリングを考えるのがデイセーラーであります。そのセーリングの要素には幾つかの要素があり、セールエリア、排水量、スタビリティー、そして船体強度です。

セーリングにおけるスピードは、これまで何度も書いて来ましたセール面積/排水量比で知る事ができます。その数値が高い程、排水量に対してセールエリアが大きい(実質的な大きさでは無く、排水量に対して)事になり、パワーがそれだけ得られる事になります。つまり、同じ風速でも、より速く走れる事を意味します。

これを支えるのがスタビリティーであり、船体強度です。パワーが大きいだけでは、微軽風や中風あたりまでは兎も角、風が強くなると支えられなくなって、結局はパワーはありながら、早目に風を逃がす、つまり、パワーを減じなければならなくなります。船体強度を示すデータはありませんが、これもスピードに影響しますし、何といってセールフィーリングに影響します。デイセーラーはセーリング重視ですから、船体強度については高いものがあります。

という事で、重要なのはスタビリティーです。これをどう評価するか?まず言える事はデイセーラーはみんな高いスタビリティーを持っています。一般的なバラスト比で言えば、だいたい40%前後、排水量の40%前後がバラスト重量となります。さらに、船体が低くデザインされていますので、船体自体の重心も低く設定されています。

船体+バラスト重量で重心は低い。しかし、これを具体的なスタビリティーとしてどう評価して、データとして得られるか? また、このスタビリティーはシングルハンドにおいても非常に重要です。何しろ、クルー無しの場合、いくつもの操作を同時にはできませんから、その間、やはり安定性が高い方が良いです。

40%のバラスト比というのは、考えてみれば、そのヨットが転覆でもした時に起き上がろうとする力になります。しかし、こういう状況は通常はありません。それより、セーリングしていて、セールに風を受けて、その時のセールパワーに対して支える力がどの程度あるのかを知りたいわけです。

船体の幅の広さはセールパワーを支える要素になります。しかし、転覆した時は幅が広い方が起き上がりにくいのです。だから、これもセールパワーに対する支えです。デイセーラーの場合、シングルハンドですから、その幅は狭い。広いと手が届きにくいですから。それで、幅の狭さは初期でのヒールをします。しかし、重いバラストがヒールして横にせり出して行くに従って、スタビリティーの効果を発揮していきます。つまり、初期ヒールはするが、それから先は重いバラストがしっかり支える。実際、サイドデッキを海水が洗う程ヒールする事は殆どありません。

さて、そのキール/バラストをどう評価するか? これはキールの深さと実質重量対セール面積で、ある程度の参考にはなるのではなかろうか?排水量3tで、バラストが1.2tなら、バラスト比は40%です。 また、排水量2tで、バラスト比が同じ40%なら、バラスト重量は800kgです。もし、両艇が同じセールエリアを持つとしたら、同じ40%のバラスト比ですが、1.2tのバラスト重量を持つヨットの方がスタビリティーは高いでしょう。しかし、スピードは後者の方が速いでしょう。しかし、前者の方が強風には強い。

全てはバランスの問題で、どれだけのスタビリティーを得、その時のパフォーマンスがどれだけ得られるか?極めて高いスタビリティーを得たとしても、セールエリアが小さくて、パフォーマンスとして面白く無いというのも宜しくない。だから、トータルのバランスになります。そして、このバランスは、過去における経験から、そして他のヨットとの比較から推察していく事になると思います。

デイセーラーに求められるのは、高いパフォーマンスと高いスタビリティーです。ですから、船体をできるだけ軽くします。その為にキャビンの広さを犠牲にしています。だから、セーリング重視なのです。それで、キャビンの狭さ等を考慮しますと、デイセーラーというジャンルとした。クルージング機能は多少抑えてでも、セーリングを重視した結果です。でも、レーサーではありません。あくまでシングルハンドでセーリングを自由自在に楽しめる事を目指した結果です。そして、グッドフィーリングには硬い船体が必要です。

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