第十五話 デイセーラーという選択





        元々、このTALKを書き始めた動機は、マリーナに繋がれて殆ど動いていないヨットが多いからです。
       昔は、結構、レースを楽しむ人達は多かった。それが徐々に、クルージングへと変わり、クルー不足
       も言われるようになり、動かなくなったヨットで溢れてくる。

       現実として、旅に出るヨットは少なく、出ても多くは近場であり、年間の回数も少ない。後は、たまにピク
       ニックとか、たまのローカルレースとかに出る。それならまだ良い方で、殆ど動かないヨットも少なくない。
       そういうマリーナの状況が普通に見られ、でも、それが異常に見える。

       様々な事情があります。忙しさもあります。クルー不足もあります。でも、いかなる事情であれ、それなら
       仕方ないとほっとくわけにもいきません。事情があって乗れないなら、乗れるようにしないと。そう思って
       デイセーラーという新しいジャンルを見つけ、その事について、日本でも、これなら、もっと気軽にヨット
       を楽しめるようになれるんじゃないかと、書き始めたわけです。

       キャビンが狭くなるという事は、なかなか御納得頂けない。セーリングが最も面白いという事も、なかなか
       御納得頂けない。だから、しつこく、しつこく、書き続けています。そうこうしているうちに、世界では、この
       20年間に、たくさんのデイセーラーが造られるようになってきました。ヨット先進国である欧米において、
       デイセーラーが認知されてきたという事になります。しかも、どんどん進化を続けています。この秘密は
       どこにあるのか?

       旅も良い、レースも良い、でも、セーリングは、そのものを面白く味わう事ができる。今日のデイセーラー
       コンセプトは、世界のヨットマン達を、新しいジャンルに目覚めさせたと思っています。考えてもみてください。
       セーリングはヨットの基本的能力であり、その性能を、気軽に、いつでも、短時間でも、味わう事ができます。
       それを逃す手は無い。

       欧米人は合理的な物の考え方をしますが、クルージング艇を別荘的に使う事に興味が無い人、旅をする
       暇が無いビジネスマン、忙しい日々を過ごす人達、レースを時折楽しむ事はあっても、それを主軸にしたい
       とは思わない人達、彼らにとって、セーリングは、自由気儘に、気軽に、しかも、エキサイティングに遊べる
       道具でもあります。そういう彼らにとって、合理的思考によれば、デイセーラーは最高だった。滅多に使わ
       ないキャビン、クルー不足、そういう事を考えれば、シングルハンドのデイセーラーがぴったりだった。

       日本でも事情は同じだろうと思います。まして、別荘にも使わない日本人、滅多に泊まる事も無い我々の
       使い方こそ、デイセーラーにぴったりじゃないかと思っています。以前にも書きましたが、日本から生まれて
       も良かったコンセプトではないかとさえ思えます。まあ、マーケットが小さい日本では難しいかもしれませんが。

       それは兎も角、デイセーラーは気軽に、セーリングを楽しむ為のヨットです。スポーツカー、バイク、自転車
       みたいな感覚です。走って楽しむ為のヨットです。週末にちょいと乗って、夏の夕暮れに、自由自在に、その
       パフォーマンスを楽しめる。そういうヨットがあっても良いんじゃないでしょうか?デイセーラーだからこそ、
       キャビンに捉われず、レーサーのレーティングに縛られず、セーリングを軸に考えて、自由にデザインされた
       ヨット、本来のセーリングとはこうあるべきなんじゃないかと思います。だから、デイセーラーをお勧めしてい
       ます。ヨットは何かの役に立つわけではありません。純粋な遊びだからこそ、そこに何らかの高揚感が無け
       れば、何の意味も無くなると思います。夢、希望、スリル、緊張と緩和、楽しさ、面白さ、頭脳ゲーム、感覚
       ゲーム、美しさ、スピード感、等々、たくさんの感覚があり、それをどう味わっていくか? ほっといて良い
       事は何もないと思います。




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