第二十五話 パフォーマンス
SADR値を重点的に見てきましたが、これは、そのヨットがフルセールで走る際のスピードポテンシャル を表します。微軽風から中風は良いとして、強風に対してどこまでフルセールで走れるか? それは そのヨットの安定性に寄ります。つまり、バラスト重量です。 速いヨットは、軽い排水量となりますが、同時に、よほど船体重量を軽くしなければ、バラスト重量も必然 的に軽くなります。まして、セール面積を増やせば、相対的な安定度は下がります。フルセールでは速く なりますが、リーフのタイミングは早く来る事になります。 では、速いのは駄目なのかと言いますと、そう とも言えず、例えば、リーフして同じか、速ければ良いという事もあります。 排水量が4,000kgで バラストが1,600kgとして、セール面積が50uなら、SADRは20です。この ヨットの排水量を20%削減したとすると、排水量3,200kg、バラスト重量1,280kg、セール面積が そのままの50uなら、SADRは23.3に上がります。フルセールでは当然、こっちの方が速い。しかし、 バラスト重量が下がった関係で、以前より早めのリーフとなります。この場合、セール面積をリーフして 42.9uにすれば、SADRは20で、前と同じですが、安定性から見ますと、以前は1,600kg(バラスト) ÷ 50u(セール面積)=32だったのが、1,280kg ÷ 42,9u=29.8と下がります。そこで、 同じにする為に40uにまでリーフすると、1,280kg÷40=32で同じ安定性となります。しかし、SADR は18.6になります。 そこで、排水量は3,200kgにするが、船体側をより軽くして、バラスト重量を1,380kgにしますと、 リーフして42.9uのセール面積にした時、1,380kg÷42.9=32で安定性は同じ。SADRは20. つまり、フルセールではより速く走れて、強風でも42.9uに迄リーフすれば、安定性もスピードも同じ という事になります。もし、船体重量をもっと軽くして、バラスト重量1,600kgをそのまま維持したとした ら、リーフタイミングも同じで、SADRが23.3のままという事になります。つまり、排水量を軽くしてパフォ ーマンスを上げる時、バラスト重量とセール面積の比率がどうなっているか?この場合、バラスト重量÷ セール面積にしていますが、キールデザインが違えば、当然安定性も違ってくるので、この計算は使え ないのですが、ここでは同じキールデザインとして考えました。比較する為です。 また、これを逆に考えた場合、元々3,200kgの排水量をサイズアップして、結果4,000kgになると 考えた場合、排水量3,200kg、バラスト重量1,280kg(バラスト比40%)、セール面積40uという ヨットがあり、この場合のSADRは18.6、 1,280÷40=32 これをサイズアップして、排水量が 4,000kg、バラスト重量1,600kgとしたと考えた場合、セール面積50uでSADRは20とパフォーマ ンスは上がるし、安定性もそのまま同じという事になります。 つまり、軽くする場合は、パフォーマンスと安定性のバランスが微妙になり、重くすれば、そのバランスが 余裕で調整できるようになる。一般的に、軽くするのはサイズダウンする場合で、重くするのはサイズア ップとするなら、サイズアップすればする程、安定性とパフォーマンスに余裕ができる。だから、でかい方 が有利とは言えます。排水量を重くすれば、バラストも重くできると同時にセールも大きくできる。このセ −ル面積を大きくできるというのが、非常に効果が大きくなります。 例えば、サイズアップして、排水量が8,000kgにした場合、バラストも40%で3,200kg。安定性を 同じにするなら、3,200kg ÷ 32=100uのセール面積となり、この場合のSADRは25.3にもなり ます。これは、フルセールでより速く、強風に対する安定性も同じです。もし、SADR20と同じにするなら、 安定性はもっと高くなります。そして、その中間の設定もできます。 という事は、サイズアップすればする程、パフォーマンスは良くなるし、安定性も高くできるというデザイン の余裕ができる。だから、有利と言えます。でも、だから面白いかどうかは別問題である事は言うまでも ありません。単なるデザイン上の考え方の問題です。 でも、面白さは理屈では無いんですが、こういう性能と全くの無関係では無いと思います。面白さは、理屈 上の性能で支えられると思います。どの辺りの面白さを求め、それにはどの辺りの性能が良いか? 感覚的な価値観と、同時に理屈もおさえた方が良いと思います。 |