第二十九話 カッコ良い爺さん




         若者たちはもう居ない。ヨット界は高齢者ばかり? 50代が若手と呼ばれる世界です。でも、それも
         仕方が無い。我々が、そうしてしまったのかもしれません。若者達にとって、ヨットは魅力を失ってしま
        った。 この現象を見て、今時の〜 とか言うセリフを言う方もおられますが、若者自身に原因がある
        わけでは無く、やっぱり、ヨットが面白く無くなったのが原因なのではなかろうか?

        面白い事には、やっぱり、多くの若者が集まります。別に彼らは楽をしたいばかりじゃない。確かに、
        電車に乗ると、携帯でゲームしているのは多い。しかし、一方では、サッカースタジアムに、野球場に
        多くの若者が集まる。毎年、甲子園だって盛んです。

        ある若者、初めてヨットに乗せてもらったのは良いが、彼から見れば、年寄りが集まって、ヨットの上で
        ビール飲んで、世間話しして、たまに方向転換して、ただそれだけだった。彼にとって、そんな集まり
        に興味は無い。ヨットって、いったい、何が面白いんですか? と言ってました。客観的に見ると、その
        若者が言う通り、それがいつもの乗り方だとしたら、何が面白いんだろう? その事をある関係者の
        ひとりに話すと、島にでも渡れば良かったのにと言う。本質はそんな事じゃ無いだろう。

        若者は兎も角、我々が、もっと面白さを味わう必要がある。年取っていようが、カッコ良いヨットで、ヨット
        のセーリングという特殊な技術を使って、スイスイ走らせて、スリルを味わい、エキサイティングで、ワク
        ワクするような味わいを獲得したら、ヨットの魅力は高まるだろうと思います。外から眺めて、カッコ良い
        と思われないと魅力は無い。別に、若者がヨットに来ようが、来まいが、どっちでも良いが、少なくとも
        現役が楽しめないものに魅力は無い。敢えて言えば、でっかいキャビンがカッコいいわけじゃ無い。
        それがエキサイティングにもならない。でも、そんな事を延々と続けてきたから、気が付かないうちに、
        自分自身も魅力を感じ無くなってきてはいないだろうか?

        だいたい、キャビン重視をし始めた頃から、ヨットは魅力を失い始めたのではないかと思います。キャビン
        が悪いわけじゃないが、キャビンが最大の魅力にはなり得ない。そこには、緊張感も無ければ、スリルも
        無い。おまけに知性なんかまるっきり必要無い。あるのはリラックス感。でも、リラックス感を味わう為には、
        その前に緊張感が無ければならない。緊張感の無い処に、リラックスもへったくれも無いだろう。

        という事で、もう一度、セーリングを取り戻し、真剣に走らせる。そこに緊張感が漂い、躍動感に溢れ、
        興奮し、それに、インテリジェンスもある。それらを味わってこそ、面白さというものではないかと思います。
        それに比べたら、キャビンなんて、たいした事は無い。あくまで、緊張感があるからこそ、キャビンが活
        きる。

        だいたい、思いっきりキャビンをでかくして、動かせなくなったから、横歩きの装置を売りつけて、それで
        面白くなったのか? はなはだ疑問です。業者のひとりでもある私が言うのも難ですが。

        若者が来るか来ないかはどうでも良いが、少なくとも、現役が活きなければ、ヨットである意味は無いと
        思います。もう一度、昔の様に、エネルギーを取り戻しましょう。カッコ良いヨットで、カッコ良く、緊張感を
        持って、走りましょう。 本当は、セーリングは面白いんですから。嬉々としてマリーナにしょっちゅう行く
        爺さん。カッコ良いじゃないですか。もう若くはなれないが、これから先、カッコ良い爺さんにはなれると
        思いますよ。

        

        

次へ       目次へ