さらに、Hoyt氏の考案は続きます。いくらジブブームがあっても、微風時に おいては、セールの重みでセールが開いてくれません。そこで、全く無風であっても、ジブブームがセールを外に押し出すようにできないか?もし、それができれば、微風時においても、セールを開く事ができる。
微風時のセーリングはジェネカーを使っても同じ事が起こります。風が弱い為にセールがきれいに開かない。その為に少しでも開くように、微風用の軽いセールにしたり、またシートも細い、軽いシートにしたりしますが、Hoyt氏はこのジブブームのデッキ下に、ピストンを設置して、車のトランクが開くように、ジブブームが常に外に押し出されるようにライトエアーイクステンダーなる物を考案しています。1本のジブシートは、コクピットから常に開こうとするジブブームを内側に引く事でコントロールします。 これでダウンウィンドでのセーリングが、さらに効率的になった事は言うまでもありません。
Pearson 氏と Hoyt 氏の情熱と努力によって、それまで見向きもされなかった新しいジャンルとしてのデイセーラーが生まれ、この特殊と言って良い新しいデイセーラーコンセプトが、世界的に広く受け入れられる様になります。
写真はHoytご夫妻、Garry Hoyt & Donna Hoyt
彼らのアレリオンにかけた情熱は、徐々に市場に受け入れられ、他社にも影響を与え、各社から同じコンセプトのデイセーラー建造を促して行きます。そして、このデイセーラーというジャンルが、世界的に確立されて行きます。現在、他社で建造される全てのデイセーラーは、このアレリオンにおける考え方が基本になっています
その後、Schumacher 氏はアレリオン20(1996年)、アレリオン38(1997年)をデザインしています。特に、アレリオン38では、カーボンマストを採用し、バックステーを無くして、メインセールに大きなローチを持たせたパワフルなセールをデザイン、その大きなセールの操作に対して、電動ウィンチを設定しています。簡単なコントロールで、最大のパフォーマンスを意図しています。
Carl Schumacher 氏(1949-2002)
Hoyt 氏は、その後、アレリオン33を誕生させますが、この時はSchumacher 氏のデザインを踏襲し、アレリオンチームとして誕生させています。 そして、2007年9月、彼は引退します。これまでのアレリオン28と38のビデオは、Hoyt氏自身の操船によるものです。
Schactor 氏(オーナー)によるSchumacher 氏(デザイナー)への働きかけで始ったこのプロジェクトは、Pearson氏へ移り、Pearson氏のSCRIMP工法を得、Hoyt氏のシングルラインリーフとジブブーム、ライトエアーイクステンダーを得ていきます。全ての男達が燃やした情熱が、このアレリオンというヨットに注がれ、完成へと導かれました。Hoyt氏はこう言います。”エアコンが設置されたヨットが面白いわけじゃない、面白いのはセーリングそのものである”
アレリオンは商業ベースから建造が始ったヨットではありませんでした。セーリングを愛する者が、情熱をかけて作り上げてきたヨットです。それがようやく市場に認められてきた。それどころか、デイセーラーとして古くて、新しいジャンルを構築してきた。レーサーでも無い、ただのクルージング艇でも無い、新しいジャンルとしてのヨットです。最高のセーリングを味わいたい。ただ、それだけです。
当時、アメリカのヨット雑誌は、アレリオンについて、”セーリングに対する新しいアプローチの仕方が誕生した” と表現しています。
Hoyt 氏の引退後、アレリオン33スポーツ、アレリオン41がデビューし、いずれも Schumacher 氏とHoyt 氏の意志が受け継がれています。その後、2014年、J
Boatを建造するUS Watercraft 社がPearson社から建造を受け継いでいます。もちろん、造船所自体は同じです。 そして、2015年秋には、アレリオン30スポーツがデビューします。
アレリオン28が建造開始されたのが、1990年、それからすると、既に25年を経ています。その間、マイナーチェンジ的な変更はあったものの、基本的デザインは変わっていません。しかし、今でもその美しさは衰えていません。その後、様々なデイセーラーが、世界中の造船所から誕生していますが、いまだに、このアレリオン28がベストセラー艇で有り続けています。余談ですが、私がHoyt
氏に、日本でアレリオンの販売を申し出た時、彼は、もっと売りやすいヨットを扱った方が良いぞ、と言われた事を思い出します。当時、アメリカでも、まだまだ苦戦していた頃でした。
今日、アレリオン28の建造艇数は460艇を越えました。もちろん、大量生産では無く、年間建造可能数は限定されます。その中で、こういう特殊なヨットとしては、驚異的な艇数です。もちろん、今でも更新中です。
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