第八十八話 上りの特徴



      
上りは基本的には角度を稼ぐセーリングです。これが他とはちょっと違う。帆走の要素は当然含みつつ、セーリングならではのゲーム性を含んでいます。それは、目標点を直接狙えないので、できるだけ角度を稼いで、ジグザグに近づく。しかし、一方では、角度をつめればつめる程、スピードが落ちます。という事で、上りのセーリングというのは、角度稼ぎとボートスピードの兼ね合いを考える、両方のせめぎ合いのセーリングという事になります。

また、風に向かって上る条件として、風向が前側から吹いてきます。見かけの風で30度以下で上れたりします。そうすると、その分、セールは内側に引き込まれなければなりません。ブームは殆ど船体中央です。
セールを外側に出すと途端にセールがバタつき始め、失速してしまいます。という事は、上れば上る程、セール角度の調整範囲が狭くなります。そして、セールもフラットでなければなりません。何故なら、セールカーブが大きいと、セールが厚くなって、それが角度を造ってしまいます。セールの裏側に風が当たって、失速してしまいます。

という事で、セールはフラットでなければならない。という事はある程度強い風でないと、本当に角度はつめれなくなる。弱い風でフラットにするとパワー不足になりスピードが出ない。パワーを確保する為にはセールカーブを大きくして、その代り角度は少し落とすという事になります。

それで、弱い風の時は、走る角度を少し犠牲にして、トラベラーでセールも少し角度を落として、スピードをつけてから、上り角度を稼ぐ。もちろん、その際にはトラベラーでブームを引き上げます。そういう事が考えられます。角度稼ぎとスピードとのせめぎ合いです。

次に、セールを船体中央に引き込めば、船体がヒールしますが、これは揚力がセールに対して直角に働き、セールを引き込めば引き込む程、揚力の作用する方向が横向きになり、前進するパワーが小さくなります。それで、上りのセーリングでは船体がヒールするわけで、風速が速い程パワーも大きくなって、ヒール角度も大きくなります。これを支えるのが、ヨットの安定性(バラスト重量)です。安定性が高い方が、より大きなセールパワーを支えてくれます。だから、速く走れます。但し、この安定性は、セール面積との比による安定性です。同じ安定性でもセールが小さければ安定性は高くなります。セール面積が大きい程セールパワーも大きくなりますが、この安定性がどれだけ支えてくれるかという問題になります。

強い風でも、ヒール角度20〜25度程度を確保する。一般的にこれ以上ヒールさせると横流れが大きくなると言われます。GPSで見ますと、船首の方向と、実際走っている方向が違います。風が強い時はバックステーやアウトホールでセールをフラットにして、カニンガムで位置を調整。そのうえで、シートでトップバテンのリーチ側がブームに並行(基本設定)にします。トラベラーは中央です。それで、適切なヒール角度になるならOK。でも、風は変化しますので、ヒール角度が大きくなるようなら、それが一時的なら、シートを少し出してリーチを開き風を逃がす。風が元に戻ればシートを再び引いてリーチを閉じる。

風が上がってある程度続くとしたら、リーチを開いて風を逃がし、その代り、トラベラーで一旦、風下に落としたブームを引き上げて、セール上部で風を逃がし、下部で角度を稼ぐという事も考えれます。セーリングが徐々に解ってきますと、いろんな応用を効かせられるようになります。もちろん、その後、風速が上がる様ならセールをもっとフラットにするし、風速が落ちるならシートを引いてリーチを閉じていく。

自分のヨットで、セールを目一杯フラットにして、それで適切なヒール角度で走れる状態、この時、風速何ノットで、上り角度が何度で、その時のボートスピードが何ノット出るか知りたいと思いませんか? これら一連のセーリングで上りのセーリングというものがわかるし、自分のヨットの性能も解ります。

そうしたら、今後、セーリングの基準ができます。弱い風、強い風、それは自分のヨットの最適な風速を基準にする事ができます。そうしたら、今後は、非常に乗り易くなります。これって、次の洗練さをもたらしますし、面白さの次元も一歩進むと思います。

        

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