第48話 おりこうさん
何でもそこそこというのはおりこうさんのヨットです。おりこうさんはとりたてて素晴らしい わけでもありませんが、逆に悪くも無い。全てにおいてそこそこなのです。一方、おりこ うさんでは無いヨットは、気に入らない点もあるが、ある一点において素晴らしい。その 一点に魅力を感じるのなら、その方が面白いと思うのです。ヨットという遊びものを、何か の役に立つ、仕事をさせる、そんな物と同列に考えて選択すると無難なおりこうさんの ヨットばかりになってしまう。そんなおりこうさんのヨットは面白みが無いのです。 セダンの車を持った人が、セカンドカーを買う時、またセダンを買うでしょうか?セダンと いうのはおりこうさんです。ファーストカーにはおりこうさんの車が必要だった。何故なら 役に立つからです。買い物や移動手段、家族も乗れば、荷物も運ぶ、通勤にだって使い ます。でも、その人がセカンドカーを買う時は同じ選択基準にはならない。面白い車、 魅力ある車を選びたくなります。スポーツカーなどは典型です。スポーツカーを買った人 がレースに出るのかというと、そうではありません。走りを楽しみ、スタイルを楽しむ。 セダンに比べると決しておりこうさんでは無いのです。 ヨットを2艇持つなんてのは理想ですが、現実には無理な話です。それで、1艇持つとな ると、皆さんセダンを求められる。でも、ヨットは車とは違います。セダンを持ったからと 言って、何の役にも立たないのです。買い物すら行けないのです。せいぜい移動手段と して使う事はできる。でも、移動手段なら、車の方が速いし、モーターボートの方が速い。 ヨットを買う理由は、ヨットが、セーリングが面白いからです。そんな事は解っていながら、 でもやはりセーリングよりキャビンを重視される。いくらキャビンを充実させたところで、自宅 にはかなわないでしょう。快適なキャビンで、自宅より快適なら、行くかもしれませんが、 そんな事は無い。セーリングが面白いから、ヨットに行く。でも、セーリングが面白いと思わ なかったら、キャビンに行くとは思わない。 どうせ役に立たないヨットですから、セダンでは無く、自分が最高に魅力ある1点を持つヨット が面白い。その他の部分では多少不満もあるが、この1点は素晴らしい。こういうヨットの方 が魅力的ですし、長く乗るにも良いと思うのです。その1点とは何かと言いますと、ヨットです からセーリングです。気軽にセーリングに出せて、セーリングを堪能できるヨット、セーリング が面白いヨットです。それを充実させるには、多少他が犠牲になっても構わない。犠牲にした くなければサイズが大きくなる。サイズが大きくなると気軽には出せなくなる。 そこで、気軽に出せる事、セーリングが面白い事、そして個人的にはもう一点、流行に左右 される事の無い、トラディショナルかクラシックなデザイン。こういうデザインは古くなっても 車のようにみすぼらしさを感じさせません。それより、きれいに保てば、使えば使うだけ魅力 が出てくる。最新のデザインは新艇の時は良いのですが、数年経つと、モデルチェンジしたり して、自分の艇に古さを感じさせるし、使い込んだ魅力も出てこない。車と同じですね。車は 買い換えのサイクルが短いですから、それでも良い。でも、ヨットは車のように買い換えるわけ にはいきません。10年なんてあたりまえです。もっともっと長く乗れる。ですから、最新デザイン のヨットより、トラディショナルの方が色あせない。 こういう事を基準に考えます。すると、気軽に出せるサイズ、デザイン、艤装の仕方、どんなリグ が良いか、そんな事を考えます。シングルならスタビリティーの高さ、そういう事を考えて、自分 の考えに近い、或いは後で改造できる、そんなヨットなら良い。それでキャビンが狭いなら、同じ 長さでキャビンのでかい物という発想はセーリングを犠牲にする。それでサイズを大きくして、 キャビンを確保する。それでも気軽に出せるならOK、もし気軽さが無くなるなら、キャビンは少し 我慢する。キャビンより、セーリング優先に考えていただきたいですね。これは速いかどうかという 問題ではありません。速い方が良いですが、その速さの為にクルーがたくさん必要というのなら、 これは気軽さを失う。あくまで、気軽さは大切です。重いヨットでも、吹けば走る。フルセールで走 れる。スタビリティーの高いヨットはリーフしなくても良い場面が広がる。と言う事は、軽いヨットは 速いけれども、オールラウンドでは無いのです。微風では勝てないが、強く吹いてくると速い。 軽いヨットはたいていバラストも軽い。それを強い風で走らせるにはクルーがたくさん要る。そうで は無くて、あくまでシングルとかダブルでの話です。基本的にはシングルハンドが良い。どんなに 大勢を載せても全て一人で気軽に出せるのが良い。シングルハンドは寂しいセーリングでは無い のです。シングルハンドは客を乗せても、家族を乗せても、奥さんや彼女でも、まったく手を借りる 事無く、一人で気軽に出せる事を意味します。最もかっこいい乗り方ではないでしょうか。 |