第98話 イタリアのコマー社

同社は1961年のスタートです。当初は木造から始め、現在ではFRP製、バキューム
バッグ工法までを採用する造船所になっています。これまでの進水実績は5,000艇
を超えていますが、大量生産の時代には、数としては少ない方でしょう。現在は年間
150艇程、建造しています。

私共がこのヨットを選んだ理由はふたつあります。まず、この会社は当社から一貫して
大量生産による建造を行わず、チャータービジネスというより、個人オーナーに目を向
けてきたという事です。それは個人オーナーのご希望の仕様をできるだけ叶えるという
事もありますが、それ以前に、基本的に工法、素材、職人のレベルなどが違ってきま
す。大量生産、大量消費という事は価格が問題です。しかし、コマー社の姿勢は価格
はできるだけ抑えるものの、あるべき所はあるべき仕様でなければならないというポリ
シーがあります。

もうひとつは、ヨットはセーリングするのが当たり前という当たり前の考え方です。どうい
う事かと言いますと、居住性は確かに目を引きます。ですから、最もお客様を魅了する
材料になるのです。でも、セーリングをするという次元では、別の視点から見なければ
ならないと思います。それは速いとか言う事だけでは無く、安定性、セールエリア、
船体の硬さ、安全性、コントロールのし易さ、メインテナンスのし易さもあります。セーリ
ングをせずに、ただ、コクピットに座って過ごすか、キャビンで過ごすかだけなら、何でも
良いです。でも、実際セーリングすれば、船体は大きなストレスを受け、長い期間には
メインテナンスも重要、それにセーリングの取りまわし易さも重要なファクターです。

コマー社のヨットはコメットシリーズとして、33フィートからカスタムで73フィートを今作っ
ています。各艇には日本一周などを含むコースタル、或いは世界を回るオフショアとい
うジャンルがきちんと分けられ、また、いくつかはスポーツタイプという、コンセプトがきち
んとしています。この事はお客様の選択に基準となります。コースタルのヨットで太平洋
横断なんかするもんじゃありませんよね。でも、日本は実にあいまいなのです。

船体素材は一般と同じポリエステル樹脂を使いますが、外皮についてはビニルエステル
を使います。ビニルエステルは水の浸透率が格段に低いのです。それからステンレス製
の部品は全て316です。一般が304を使っていますが、このステンレスは錆びにくいの
ですが、錆びます。ですから、茶色に一部変色していませんか?ほっとくと中に浸透して
いくんです。それから飛び錆び言って、パルピットなどがところどころ茶色に汚れ来ます。
これは外部のごみが付着し、それが錆びる。ところがですね、316は錆びないんです。
飛び錆びもほとんど付かない。ですから、汚れないんです。いつもピカピカです。でも、
確かに価格は何倍もしますが、長い付き合いになるヨットですから、長持ちした方が良い。
しかも、見えない部分にも全て316ですから、安心です。以前、あるヨットですが、キール
ボルトがぼろぼろになっていました。こういう事が無いのです。素材については、まだまだ
ありますが、操船についても異なります。

昨今のクルージング艇は殆どがキャビンの上にメインセールのトラックがあります。コクピッ
トにこのトラックを置くと邪魔というのが相場ですが、その為に、メインシートには届かない。
届かないので、オートパイロットを作動させて、前に行き、操作する。或いは、クルーが
必要です。さらに、ブームの中央位置からとりますので、引くにはより大きな力を必要にし
ますし、という事はブームにかかるストレスも大きいという事です。以前、ブームの中央で
折れたブームを見た事があります。その点、ブーム後部で引きますと、力は軽減されます
し、ブームにかかるストレスも少なくなります。

最近見たヨットで、ジブシートウィンチがステアリングの真横にあるヨットがありました。こ
は一見シングルでは良さそうだと思いますが、それじゃメインシートはどうするの?という
事で相変わらずキャビンの上です。これは中途半端ではないかと思いますね。シングル
にしてはメインシートが届かない。クルーが居たらOKですが、逆に、クルーがジブシート
を扱うには位置が悪い。ウィンチがコクピットの前側からでは操作しにくい。もちろん、オート
パイロットを使えば、どうにでもなりますが、ロングでも無い限り、オートパイロットばかり
では楽しくない。自分でやった方が面白い、乗るのは乗せてもらうより絶対面白いのです。

それでコマー社の結論はメインシートトラベラーはステアリングのすぐ前、ヘルムからも届き
クルーが居る時はコクピットの前側からもタクセスが良い。ジブシートウィンチの位置はコク
ピットの前後の中央位置、ヘルムから体を伸ばせば届き、クルーは問題無い。ブローが
きたらメインを調整する。これでシングルでも行ける。できるだけオートパイロットは使わない
主義で、セーリングを堪能する。

まだまだ、たくさんありますが、コマー社は日本では殆ど知られていません。でも、このヨット
は優れもの、セーリングするという私の考え方と合っています。価格もそれ程高くは無いし、
良いヨットだと思います。

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