第五十一話 もうひとつの旅


      

現代文明が発達して、いくら便利になっても、人間はますます忙しくなるのが常、だからボートの方に人気があるのか?これなら、短時間により遠くへ行ける。ボートの旅とは時間との兼ね合いで、如何にも現代の価値観に合っているのかもしれない。

アメリカ東海岸のバックコーブ社は一基掛けエンジンでゆったり走るボートを主としてきた。と言ってもクルージングスピード20ノットぐらいだが、この度、ニューモデルとして二基掛けエンジン、しかも船外機船でトップ40ノットに迫るハイスピードボートをデビューさせた。Backcove 340.これならクルージングでも30ノットは行ける。遊びのうえでも時間は貴重なのだ。

とは言え、単純に速ければ良いかと言うとそうもいかない。安心感はもちろん、ボートでもその走るフィーリングは無視できない。それは船底のデザインと船体強度によって、波のあたり、さばきが異なる。ハイスピードで波が高い時は、波にバンバンぶつかるが、その当たりが全然違う。それによって気分も違うし、身体の疲れ方も違ってくる。快適とは、いろんな装備が豊富に設置されている事もあるだろうが、この走りのフィーリングは快か不快を大きく分ける。

快適な走りをするものは、走らせて楽しくなる。スピードだけを追求するのなら、そう難しくは無いが、この快適な走りをもたらすボートはそう多くは無い。いつも凪なら何でも良いが、そうは行かないのが海だから、そこに大きな違いが生まれて来る。良いボートは、その走りが頼もしく、心地良い。見た目のデザインは好き嫌いの範疇だが、走りの質はその限りでは無い。

下の写真は同じバックコーブ社のBackcove 34。こちらは一基がけエンジンで、巡行20ノットとゆったりした走りを味わう。それでも遥かにヨットより速い。これらの違いをどう捉えるかはオーナー次第です。上と下のボートは同じサイズですが、340の船型はハイスピード用に新しくデザインされてます。ハイスピードを目指したら、エンジンだけでかくすれば、それで良いわけじゃない。

現代のボートファンにも違いがあり、巡行20ノット派と巡行30ノット派に分かれるようです。そして旅には、これに加えてヨット派が居る。同じ目的地を目指すも、そのアプローチの仕方が違います。それが価値観の違いで、浸透度が深まると、もっとバリエーションは増えて行く。だから、面白くなる。浸透度が低いと似た物ばかり、それは物が軸になり、浸透度が高いと自分の価値観が軸になるからだと思います。



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