第六十九話 TES 32 クルージング


      

今年最初の話題は写真のTES32クルージング艇です。実は今年の夏に日本にやってきます。昨年のTES28に続く2艇目ですが、この造船所が建造するヨットの最大の特徴は、職人が真面目に誠実に、手間を惜しまずに建造しているという事です。とっても大切な事だと思います。

このヨットはカーボン等のハイテク素材を使っているわけではありませんし、高級艇だとも言いませんが、船体基本構造のストリンガーやバルクヘッドはもちろんの事、バースやソファーの下には細かく仕切りを造って、船底にパテ接着では無く、きちんと積層されています。これは物入れに重宝するだけでは無く、ハルの剛性にも寄与しています。また、様々な備品はその設置の仕方においてもきちんとなされている。さらに、作業においてFRPを削ったりする事がありますが、FRPの削った粉なんか全く残っていない。こういう事は当たり前の様で、実は多くがそうでは無いんです。いろんなコンセプトのヨットがあって、いろんなデザインがありますが、それがどんなヨットであろうが、きちんと建造して欲しいわけです。

今回のTES32にはメインファーラー、バウスラスターを採用しました。エンジンはヤンマーの3YM30セールドライブです。その他、オーパイは当然ですが、電動ウィンチ、エアコンも採用しています。クルージング艇として快適に過ごせる様にとの配慮ですが、この上ない程充分ですし、昨今のクルージング艇の見本みたいなものでしょう。

この造船所のもうひとつの特徴はステアリングの方式が通常のラダーシャフトにコートランドを取り付けて、ワイヤーでステアリングホィールに連結する方式では無く、油圧方式を採用している点です。ステアリングを回せば油圧でもって舵をコントロールします。この方式はワイヤー方式と違ってスペースを取りません。従って、アフトバースをかなり広く取る事ができています。

それから些細な事かもしれませんが、メインシートのリード先がコクピットフロアーにある事もこのヨットの特徴です。昨今のクルージング艇はみんなキャビン入口の向こう側にリードされています。しかし、メインシートのコントロールにより力が必要になる事と、いざと言う時さっとシートを出したりができません。その点、コクピットリードであればブームエンド側に近くなって力がより軽減されますし、もちろんテークルが組んであり、容易に手が届き、さっと引いたり出したりする事ができます。ウィンチを使う必要が無い。昨今のヨットはジブは小さく、メインがより大きくなっていますから、何かとメイン操作の方が多くなると思います。特にシングルなんかの場合だと舵を持ったままでもできる。クルージング艇であっても、こういう配慮が嬉しいです。

ただメインシートトラベラーはありません。コクピットフロアーの一点取りです。このトラベラー、いろいろ意見はあるとは思いますが、私はクルージング艇には必須では無いと思っています。そこまで調整する方もおられるでしょうが、旅やピクニックを考える時、もちろんセーリングも楽しみますが、メインのトラベラー調整無しで充分楽しめるし、バングを使っても良いと思っています。

クルージング艇に対して様々な意見をお持ちだとは思いますが、私は、この造船所の考え方、誠実な建造の仕方におおいに賛同するものであります。

   
インテリアはオーク(写真)かマホガニー、ステアリング前のピデスタルは大きいので、計器の設置には良いですね。今回はここにオートパイロットのコントロール、コンパス、バウスラスターのコントロールを設置し、中央の広いスペースにGPSを設置します。計器ボックスなんか必要ありません。

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