第七十二話 人手不足


      
イーグル54デイセーラー

世の中人手不足という事で、移民法ならぬ出入国管理法を改訂して外国から労働力を大量に輸入しようという法案が成立しました。一方、人手不足はヨット界も同じで、但し、こちらは人手不足という言い方はせずにクルー不足と言いますが、こちらは既に技術革新によってクルー不足を解消しています。写真のヨットは54フィートですが、たったひとりで操船できます。

ひとりで乗るかどうかの問題ではありません。操船に携わる人間がひとりで間に合うという事です。さらに、この造船所は70フィートの計画をしており、もちろん、これもシングルを可能にする。今やそういう時代なんですね。様々な技術革新が現実の不足を埋めるだけで無く、さらに可能性を広げてくれる。それがでかいヨットばかりでは無く、小さなヨットにだって波及してきた。30フィートにスラスターや電動ウィンチなんかを設置する時代です。GPSだってそうです。誰でも簡単にナビゲーションができる。これが文明の進化だと思います。

本来なら、これでヨットがどんどん増加するはずです
ところがそうはならない。便利、快適で言うならボートの方がもっと楽じゃないか。つまりヨットは便利だという理由だけで乗るわけじゃ無い。ひとりで楽に操作できる事は重要だけれど、それが究極のポイントじゃあ無い。あくまでそれらはベースにあって、その上で楽や便利以外の何らかの魅力が欲しい。それが解らないからボートの方が良いとなる。それは例えば、釣りの魅力が解らないから、魚屋で買ってきた方が良いみたいなものでは無かろうか?もちろん、ボートにも魅力があるが、ヨット対ボートの比率が極端過ぎないか?

ヨットの魅力はセーリングにおける知的な面と情緒的なフィーリングにある。それはボートより遥かに遅い5,6ノットであろうが、セーリングでしか味わえない味わいがある。これまではレースかクルージングしか無かったのだが、レースに興味は無い、旅ならボートの方が手っ取り早い。そうなるとヨットにする必要が無い。ところが、ヨットにはセーリングという特別な味わいがあります。これこそがヨットの魅力です。

ただ真っすぐ走る。これだって何と気持ちの良い事か。風の音、波の音、滑らかに走るセーリングはエンジンで走るのとはわけが違う。早く目的地に着きたいわけじゃない。それならボートの方が良い。でも、セーリングはその走る様のフィーリングです。自分自身の感覚に注意して頂きたい。そして、それがさらに知的なプロセスを経てそこに至るフィーリングです。そこに意識を集めると、より多くの感覚が解って来る。魚屋で買ってくる魚では無く、自分で釣り上げた魚です。そこには多くの感覚があった。


現代のメジャー的考え方は人手不足なら海外から持ってくれば良いという考え方です。フィーリングや情緒とか言うわけの解らない要素なんかは重視されない。理屈で考え、合理性が重視される。でも、人が最後に獲得したい究極の要素はこのフィーリングにこそあるのではないかと思います。だからでかいデイセーラーも建造するのです。旅を目的にでかくするわけじゃない。

良く建造されたデイセーラーはセーリングに滑らかさを感じます。これが気持ち良い。これがアレリオン28で最初にセーリングした時の印象です。そこから始まって、50フィートのデイセーラーだったらどんな感じだろうか?もっとハイスピードだったらどうだろう? 無性にそういう感覚を求めた人達が居る。彼らはどんな世界をヨットから獲得しているのか?サイズに関係無く、自分の感覚に注意を置く。それがセーリングの面白さを引き出してくれる。外ばかりみてるとやっぱりボートの方が良いとなるが、セーリングの魅力は自分の内なる感覚にある。そんな感じかな?


人手不足、クルー不足みたいな問題は人手を外部から持ってくるか、或いは技術革新で解決できる。でも、どちらにせよ本当の問題はその後の我々の感覚です。言い方を変えれば幸福感です。それによって楽しくなるのか?面白くなるのか?幸福感が得られるのか?あらゆる問題はこれらが危うくなる事であり、それを表面的に取り繕っても別の危うさに置き換えるだけになっては意味が無い。


イーグル70デイセーラー 70フィートのデイセーラーなんてどんなセールフィーリングなのだろう?

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