第四十二話 安定性は変えられる


      

セーリングの重要な要素として安定性が良くあげられます。安定性が高い方が良い。多少吹いても、フルセールでそのまま走れるので楽です。確かに、それはそうですが、しかし、これは本当にそうなのでしょうか?では、安定性はあらゆるジャンルにおいて高ければ高い程良いのでしょうか?

安定性は二種類あって、ひとつは復元性消失角度が何度で、大波受けてひっくりかえった時に、再び起き上れる能力を指し、もうひとつは、セーリング中における風力に対抗できる安定性であり、この二種類は異なるものです。そして、我々が一般的に言う安定性は後者を言うと思います。

強風でリーフすれば安定性は増します。という事は、その船体が持つ安定性+セールパワーに対しての風力という事になり、リーフはセールパワーをコントロールしている事になります。船体の安定性は変える事ができませんが、セールパワーを変える事はできます。

非常に腰が強いヨット、非常に高い安定性、見方を変えればその船体の安定性に対してセールが小さいと言えます。つまり、走るスピードが遅い。もし、もっと大きなセールにすると、スピードは上がる、しかし、安定性は低くなる。この関係が成り立ちます。

例えば、クルージング艇、安全に旅をしたいわけで、途中には強風も想定されます。こういう時、セール操作を頻繁に行う事は無く、できるだけ安定性は高い方が良い。もちろん、ヨットによって差はありますが、基本的にはこういう考え方では無いでしょうか? まあ、旅はエンジンを使う事も多いですが。

一方、セーリングを重視したヨットでは、セーリングスピードは重要です。そうなると船体が同じ安定性をもっていたとしても、セールを少し大きくしてスピードを稼ごうとするでしょう。でも、セールが大きくなり過ぎると取り扱いも大変になりますから、船体重量を軽量化します。重量軽減はセールをでかくするより効果的に作用します。この時、バラスト重量をどうするか?一般的にはバラストも少し軽量化し、その代わり、バルブキールで深くするとかの工夫がなされます。

では、セーリング重視のヨットでどの程度の安定性を持たせるか?これはヨットに寄ってまちまちですが、セール面積との関係を含めて、セーリング重視のヨットはセーリング操作して遊ぶ為に造られています。つまり、より速く走る為に安定性を多少削ったとしても、セール操作によって安定性をコントロールできます。そうやって操作を遊ぶ(程度の違いはあります)のがセーリングであり、スピードも速くできる。

これらを踏まえて考えると、ただ安定性は高けりゃ良いってもんじゃない。使い方の用途に寄るし、どの程度のセール操作を求めているかにも寄ると思います。そして、セール形状を変化したり、面積を小さくしたり(リーフ)大きくしたり(第三のセール)、そうやって微軽風から強風まで幅広く楽しみたいのと、セーリングに左程重点を置か無い場合は安定性は高い方が良いとなると思います。

腰が強い、けど微軽風にはからっきし走らない。或は、良く走るけどフルセールで走れる風力は少し低くなる。どちらも、第三のセール等を含めての調整という事を考えて、どこら辺りが良いのか?過去の経験からそれぞれが、自分に合う安定性のレベルを見つけなければならない。スピードと安定性は引き換えです。

実は、以前、33フィートのデイセーラーで、一般的なデイセーラーより大きなセールを持つヨットがありました。スポーツ度高いな〜と思ったものです。恐らく、微軽風に良く反応するでしょう。でも、フルセールでの安定性は低くなる。強風では他より早めのリーフが余儀なくされるかもしれません。でも、そうやってスポーツするのが目的だし、リーフしても速いなら良いという考え方です。一般的にデイセーラーは1ポイントリーフしか無いのですが、このヨットには2ポイントはあったし、3ポイントあったかもしれません。

どういう乗り方をするのか?ポイントはそれ次第ですね。それで、どういうヨットなのかを見る必要があります。それで、デイセーラーの場合は、SADRとセール面積、バラスト重量とデザイン等を比較すればだいたいは分かるかと思います。セール操作は走るパワーと同時に安定性を変化調整するものです。

そして、クルージング艇からレーサーまで、異なるのはスポーツ度の違いだと思います。ですから、SADRの数値を比較していけば、それだけでも、だいたいどんなヨットか解ると思います。

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