第五十二話 デイセーラーの作法


      

デイセーラーに限らず、クルージング艇にしても、それぞれのコンセプトにおいて、かなり進化を遂げてきました。これからはもう使う側の問題です。我々がどう使いこなしていけるか?どう楽しめるか?これからは、向こう側では無く、こちら側のソフトが試されるのではないでしょうか?

ずっと以前、ある英国の造船所の担当者から、ソフトの重要性を説かれた事があります。ハードはどんどん進化していくが、それに伴うソフトが不足すると、せっかくのヨットを使いきれないで、いずれはそこが大きなハードルになる。それが今からの課題ではないでしょうか?

そのソフトとは、如何にヨットと接し、如何に使い、如何に楽しめるか?日常のライフスタイルにどう組み込んでいけば、より充実した人生を創造できるのか?単なるレジャーのひとつとしてやる方法もあるし、セーリングを趣味的に探究する方法もある。或は、冒険の旅に出る事もできる。

これまでは、ヨットライフを陸上の目線で見てきたかもしれない。陸上の生活の便利さ、効率の良さ、そういう物をヨットに求めてきた。しかし、それだけではソフトが進化しないのは既に証明済みです。そうでは無くて、海に出るという前提からの発想が必要なのかもしれません。

雨が降れば傘をさすというのが当たり前ですが、雨が降れば濡れても良いし、当たり前という視点もある。何かがあればそれにどう対処できるかと考える事もできますが、そのままを感じてみるという考え方もある。限度はあれど、その方がより自然かもしれない。それが嫌なら、海に出ないという選択肢もあります。

スプレーが嫌だから、ドジャーを設置した。これは正解ですが、そのまま濡れるという選択肢も正解だと思います。ある程度の対応は必要でしょうが、それ以上はそのままを浴びるという考え方も持った方が良いかもしれません。ソフトですから、あくまで考え方の問題です。

デイセーラーの考え方は、その自然に近い感じがします。セーリングという行為に、如何に対応するかは熟慮されていますが、その他はおまけに過ぎない。ミニマムのキャビン、殆どのデイセーラーオーナー達はドジャー、ビミニ等は設置していない。その反面、広いコクピット、シングルでの操作のし易さ、セーリング性能の高さ、走りをより感じるフリーボードの低さ、船体剛性の高さ等々、セーリングを満喫する事がコンセプトとして提案されています。これは新しいソフトへの誘いでもあります。

デイセーラーはセーリングそのものを楽しみ、セーリングとはどうなっているのかを探求し、多くの発見をしていくという遊び方に最適なヨットです。ならば、そのセーリングを探求していくというソフトがピッタリです。ゼロから出発し、徐々に分かってきて、自由自在感を感じつつ、さらに探求を続ける。その探求こそがセーリングそのものを味わう最適な方法だと思います。陸上生活のストレスを癒すという面もありますが、それ以上に、セーリングという世界を、陸上世界とは別にもうひとつ持つことが、デイセーラーの目的だろうと思います。

自分のヨットに精通し、自由自在にセーリングができるようになったら、これ程面白いものは無いと思います。その最も近道は、セーリングを探求し続ける事に面白さを感じる事だと思います。そうしたら、自然に誰もが気が付いたら自由自在を感じていたという事になる。そうしたら、もっと奥を探求する処に面白さを求めるようになる。

ですから、セーリングに出たら、ぼ〜と走る時ももちろんありますが、気持ちを入れて、探求心を発揮する。例えば、真っすぐ走るという単純なセーリングにしても、舵操作を如何に取ったら良いか?実際に、後ろを振り返れば航跡が見えます。何ノットの風で、何ノットのスピードが出て、何度で上って、何度ヒールしているか?それも風速が変われば、また異なります。だから何度も乗ります。これだけでも相当な経験が得られます。さらに、風速が変わる、風向が変わる、そういう時に、どういう舵取りをするか、何故そうするのかと考えると、理由が解るようになる。

ただセーリングして、それを感じる事も重要ですが、それだけだと面白さも風次第になり、面白さと退屈の繰り返し、そこをもう一歩探求の視点から、いろんな事を考えていくインテリジェントなセーリングをも併用し続けると、間違いなく、感性が洗練されていき、これまで感じれなかったセーリングの味わいが広がって行くと思います。

デイセーラーの作法とは、ただセーリングするだけなら、どんなヨットでもできますが、セーリングをより探求する面白さを味わう事がデイセーラーである所以だろうと思います。だからシングル仕様でもあり、実に多くのセーリングポテンシャルやサイズのバリエーションが用意されています。解る、できる、感じるというのは、人間にとっての根源的欲求では無いでしょうか?もちろん、セーリングの探求は簡単ではありません。その難しさを如何に気軽に実践できるようにするか?それがデイセーラーだと思います。


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