第十二話 海上生活


      

クルージング艇には、快適な住宅設備とでも言えるような装備がなされています。それは、そこで生活する事を含めているからに他なりません。短い旅だろうが、長い旅だろうが、それらは移動とか、その先の現地の観光とか、食事、温泉、等々、さらに、ヨットで料理したり、飲んだり、寝泊まりまで含んで、それは生活そのものという事になります。だから、より快適な生活にする為には、広いキャビンはもちろん、様々な便利機能は欠かせないという事になります。

陸上で覚えた快適生活を海上でも、できるだけ実現したいと思うのが人情ですから、冷蔵庫、温水、シャワー、できるもんならバスタブだって欲しいぐらい。その他、ガスコンロ、電子レンジ、エアコンもあれば尚良い。それに、テレビ、ビデオ、音楽等々、生活するわけですから。ホテルに一泊する時だって、快適じゃなきゃ嫌ですね。それがクルージング艇の理想とする在り方だと思います。

とは言いましても、求めればきりが無いわけですが、例えば、上記写真は28フィート。十分な広さと装備がなされています。このヨットで、6人分のバースが確保されています。左舷バースはダンブルバースにもなりますが、バウバースと後部側には広いアフトバースもありますから、家族でしたら、長期だって生活できます。

一方、デイセーラーは海上生活を前提とはしていません。ウィークエンダーと称して、1泊、2泊ぐらいの想定はあるものの、ヨットに快適生活を求めては居ない。だから、その時だけに必要な最小限の物を持ち込む事によって、短期なら、まあ許せます。

クルージング艇はいわばホテルを目指し、デイセーラーは、この点においてはキャンプかな? でも、テントだって、それなりに面白いですし、実際はテント以上に快適ではあります。狭い、快適装備は無い。でも、それを工夫したりして楽しむのがデイセーラー、キャンプの面白さに通じるものがあります。

海上生活をどう考えるか? 快適クルージング艇は当然良いし、でも、キャンプ気分なんかも面白そう。コクピットで飲んで、飯食って、デイセーラーだって、お湯ぐらい沸かせる。酔っぱらったら、後は、キャビンで寝るだけ。陸上は便利ですから、お風呂だって、コンビニだって、あっちこっちにあって、全然困らない。たまには、そういう旅だって良いんじゃなかろうか?但し、短期なら。

もちろん、クルージング艇だったら、どうにでもできますね。長期の海上生活なら、クルージング艇が良いのは当たり前なのです。また、旅先ばかりでは無く、マリーナに置いたままでも別荘生活を楽しめる。せっかくの装備がありますから、もっと有効に利用した方が良いんじゃないかと思います。クルージング艇は本来、移動する別荘です。

という事は、毎年、係留マリーナは変えるというアイデアは如何でしょうか? それは、ひょっとして名案かもしれません。係留場所を別荘とし、近辺をセーリングして、そして、そのマリーナを変えていけば、それが旅にもなるし、別荘のお引越しでありますから、そこをまた楽しむ事ができる。クルージング艇はそういう考え方の方が面白いかもしれません。そうしたら、10年ぐらいかけて日本一周なんて事もあり得る。もちろん、どこか気に入ったマリーナがあれば、そこにずっと居たって良いわけですが。日本一周なんて途中でやめたって構いません。

実際、毎年の様に係留マリーナを変えておられた方がおられます。海外なんかだったら、ニューヨークに住んでいた方が、暖かいフロリダに置いてるなんて珍しくも無く、それどころか、ハワイとか南フランスにおいてるなんて方も居ました。

クルージングヨットの在り方、デイセーラーの在り方、そして何より、自分自身の在り方を吟味しさえすれば、もっと楽しめるようになるのでは無かろうか?みんなと同じ様にするもんですから、そのうち、動か無くなる。これでは発展のしようが無い。ヨットは自由な世界、どんな使い方をしようが構わない。旅でもセーリングでも、しなければならないわけじゃない。でも、何もしないのは、ただ無駄にしているに過ぎません。我々に与えられた時間を、どういう具合に使うか? すべてはこれ次第ですね。

という事で、クルージング艇は旅をするヨットですが、もうひとつの考え方として、海上生活を楽しむ為のヨットという事もできると思います。


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